研究課題/領域番号 |
18K13045
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
森本 洋介 弘前大学, 教育学部, 准教授 (20633613)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 学力テスト / 能力測定 |
研究実績の概要 |
全国学力・学習状況調査の結果がマスコミによって報道される際、旧B問題の平均点が比較的低いことが子どもの低学力の問題と結びついて論じられることがある。この平均点の低さの原因を、藤田は問題の難易度や解答する子どもの思考力の視点で論じている(藤田英典『安倍「教育改革」はなぜ問題か』岩波書店、2014)。しかし、仮に能力のある採点者が評価すればより高い点数になった可能性がある場合、テスト結果の評価や、結果を受けての今後の教育方針は大きく変わりうる。特に全国学力・学習状況調査の旧B問題のように短文・長文記述の問題が得点の多くを占める場合、採点者の評価能力が平均点の変化に大きく関与しうると考えられる。以上から、採点者が的確に採点を行える能力を有するか否か、また能力を有しているとしてどの程度の能力を有しているのかが、テストの結果の信頼性に直結するのではないか、という問いが導出される。 2019年度はカナダ・アルバータ州を対象に、中等教育修了試験の一種である「Diploma Exams」と、第6・9学年の言語、算数・数学、理科、社会という全国学力・学習状況調査のような調査目的の州統一テスト「Provincial Assessment Test(PAT)」の2種類の標準テストがについて調査した。その際、ほぼすべての子どもが受験するという意味で、ハイステイクスではないが子どもにとって大きな意味を持ち、かつ日本とカナダで比較可能な性格を持つ、学力調査目的の州統一テスト(PAT)に焦点を当て、上記の問いについて検討した。この内容について第55回日本比較教育学会研究大会において成果発表を行った。 なお、3月にカナダ・ノヴァスコシア州の調査を計画していたが、COVID-19の影響により渡航制限がなされたため調査が行えなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は4年計画で、カナダの3つの州について、各州の学力調査の概要や評価(採点)の方法を比較分析していくことが目的である。2019年度終了時点で2年目が終了したことになるが、オンタリオ州とアルバータ州についてはある程度の調査を終えている。なお、申請当初はこれら2つの州とケベック州を調査する予定であったが、ケベック州は卒業認定テストしか行っていないことが判明し、いわゆる学力調査を悉皆で行っているノヴァスコシア州に対象を変更した。 2020年2月の時点でノヴァスコシア州教育省の学力調査部門の担当者と連絡を取ることができ、訪問日程まで決定していたが、COVID-19の影響で3月中旬にカナダ連邦政府が国境封鎖を宣言し、渡航に制限がかかったうえ、ノヴァスコシア州の学校も一斉休校となることが決まったため、学校訪問が不可能になり、訪問しても十分な調査が不可能であると判断したため渡航を取りやめている。しかし担当者とは引き続き連絡を取っており、渡航制限が解除された段階であらためて日程調整を行い訪問することを確約しているため、計画自体が取りやめになったわけではない。2020年度にノヴァスコシア州の調査を行うことができれば、最終年度は成果をまとめることになるため、おおむね順調に進展していると判断した。なお、2020年度にノヴァスコシア州の訪問調査ができなかったとしても、担当者とインターネット通話でインタビュー調査を行うことは可能であることを確認しており、2021年度当初に訪問することも可能であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に訪問できなかったノヴァスコシア州の調査を2020年度に行う。オンタリオ州とアルバータ州での訪問調査の成果から、訪問時に聞き取る内容や学校訪問の際に見聞きするべき事柄についてノウハウが蓄積されており、訪問計画さえ決定すれば、調査自体は円滑に進むことが予想される。具体的に調査する内容としては、ノヴァスコシア州教育省の訪問調査において学力テスト答案の採点の方法や採点者の資格審査など、外部に公開されていない情報について聞き取る。また学校訪問では学力調査に対する教員や管理職の意識と学力調査に対する学校としての対応、可能であれば児童生徒の考えなどを聞き取る。そしてノヴァスコシア州の主要大学であるダルハウジー大学の図書館を訪問し、学力調査に関する政策資料について閲覧する予定である。 2021年度はこれまでの研究成果を整理し、各学会の研究大会において発表したり、成果報告書を作成したりする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月にカナダ・ノヴァスコシア州に調査訪問を行う予定であったが、COVID-19の影響によりカナダ連邦政府が国境封鎖宣言をしたため渡航制限が実施され、調査が行えなかったため、旅費を執行できなかった。2020年度に本調査を再度計画し、実施する際に使用する予定である。
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