最終年度はケベック州を対象に調査を行う予定だったが、COVID-19感染拡大の事情により、調査対象をノヴァスコシア州に変更してオンライン会議システムで調査を行うことになった。ノヴァスコシア州において悉皆調査の学力テスト(PLANS)の運営を担当している教育省の担当者にインタビュー調査を行った他、インターネットでデータを収集した。 本研究の期間全体を通して得られた成果は以下の通りである。学力テストの採点については日本でも「大学入学共通テスト」において1つの論点となっている。ところが全国学力・学習状況調査の記述問題の採点方法については、あまり注目されず、請負業者による採点過程は情報公開されていないに等しい。 そこで初年度にオンタリオ州で学力テストを統括する「教育の質とアカウンタビリティに関するオフィス」にコンタクトをとり、実際に作業に参加した教員と集団でのインタビュー(座談会形式)を行うことになった。受験者数が日本とオンタリオ州では大きく異なるとはいえ、オンタリオ州では現役教師や退職教師などが採点を行っている。テストのあり方や採点方法に賛否があるとはいえ、オンタリオ州方式のテスト運営は現在の日本を相対化するための1つの視点を提供しうる。次にアルバータ州でも同じような採点プロセスを採用しているが、その考え方についてはオンタリオ州と多少の差異がある。それら2州と比べて人口規模等に差のあるノヴァスコシア州についても採点プロセスが明確に定められている。すべての州の採点プロセスから導き出されたキーワードは「透明性(transparency)」である。日本の採点プロセスがブラックボックス化されていると述べたが、カナダ3州の状況と比較すれば、日本の採点プロセスが不透明なのは明らかである。日本の悉皆調査においても、透明性をもって問題作成から結果公表までの過程を説明することが重要である。
|