公営塾の登場は、1993年のふるさと創生資金を活用して創設された沖縄県北大東村の「なかよし塾」にはじまる。これは、村内の子供たちの学習習慣の未確立という課題の解決策であり、その後、秋田県東成瀬村などの過疎地域の自治体において設置され実態がある程度明らかにされてきた。公営塾は、憲法89条に抵触する可能性も指摘され、過去には、杉並区立和田中学校地域本部による「夜スペシャル」のように、法的論争となったこともある。ちなみに公営塾は、公の支配に属する「教育の事業」であるから同条に抵触可能性はないと考えられる。しかし、大桃ら(2020)は、学習塾などの提供する「有償の教育機会」への公費支援が多くみられることを「政府が関わるオフィシャルな活動を「公」、民間組織のとくに営利追求に関わる活動を「私」とする区分はかつてのもの」としたうえで、日本型公教育の境界の不鮮明化と関わって、教育と福祉の関係、学校教育と社会教育の関係の再定位を提唱した。このように公営塾は、学習機会の確保というロジックの中で検討されてきた。 そこで、公営塾の持続可能な運営方法を探ることを目的に、地域おこし協力隊制度の活用による教育を柱にした地方創生に取り組む岡山県和気町の「和気町公営塾」を手がかりに検討することにした。 結果、①英語教育に特化しつつ、子供たちが主体的に学習できる様々なプログラムを企画し、意図せず子供たちが主体的にまちづくりに関わることができる活動という全国的に例のない取り組みがみられた。②講師不足という課題は、県内の大学と包括連携協定を結ぶことで解消した。③公営塾の運営ノウハウをもつ企業の登場は、運営する人材を求めるノウハウがない自治体にとっては朗報であるが、公営塾がパッケージ化されることも意味することをしてすることによって、公営塾の新たな運営方法を模索する上で有効な示唆が得られた。
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