最終年度である2022年度は、デンマークの「キャリアガイダンス」と「若者の移行支援」の特徴の分析と研究成果の作成作業を進めた。 具体的な研究実績としては、2022年10月に共著『デンマーク式 生涯学習社会の仕組み』を刊行することができた。特に、担当した第2章では、主に前期中等教育以降の複雑に分岐する教育機会と、キャリアガイダンスを中心とした若者の進路支援を取り上げている。日本の場合、若者への支援は福祉などの支援対象となってから、つまり問題化してからの支援が多く、問題の原因を本人の自己責任に求める向きも未だ多い。デンマークにおいては、専門職によるキャリアガインダスという情報・相談支援、また学生手当という経済的な支援を、若者であれば誰でも受けることができる。若者の進路選択や移行を本人の自助努力だけに負わせることなく、経済的土台を支え、専門家による伴走的支援の制度がある。その具体的な内容を明らかにした。 また、様々な困難さを抱える若者を支える多様なオルタナティブな学び場の実践も紹介した。例えば生産学校では、課題を抱えた若者が、教員と複数人の参加者からなるプロジェクトに所属する。そして顧客からの依頼を受け、木工製品や手芸、ウェブサイトの制作やレストランの運営などを行う中で、自己肯定感や将来への展望を取り戻していく実践が行われている。様々なオルタナティブな学び場では、困難を抱えた若者個人に問題があるのではなく、教育制度や学校の仕組みにあり、「一人一人にあった学び方がある」いう視点から、移行の支援が行われている。多層的な学びの機会の保障が、問題化の未然防止とより良い移行につながっている仕組みを考察した。 上記の成果物以外にも、教育新聞での連載『北欧の教育最前線』において、本研究に関連したデンマークの教育に関する原稿5本、共著2冊を成果物として発行することができた。
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