研究課題/領域番号 |
18K13072
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研究機関 | 都留文科大学 |
研究代表者 |
瓦林 亜希子 都留文科大学, 教養学部, 准教授 (10780249)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フレネ教育 / 子ども主体 / アクティブラーニング / 幼児教育 / フランス / 興味・関心から出発する学び / 自己表現 / 批判的思考 |
研究実績の概要 |
本年度は2019年4月に、南仏ラ・シオタにある公立学校ジャン=ジョレス中学校とリュミエール高校内のフレネ教育クラスを訪問した。さらに上記中学のフレネクラスの元社会科教師が転任して新たにフレネ教育を実践している、マルセイユ市のロンシャン中学校も見学することができた。ジャン=ジョレス中学では、2018年秋の新学期からフレネクラスの担当教員の多くが入れ替わり、若手の先生も多くなっていたが、どの先生も各教科子どもたちそれぞれの表現や興味・関心を活かした学びを構築しようと工夫されていた。保護者や卒業生の方からもお話を聞く貴重な機会も得られた。ロンシャン中学校では、話を聞いた校長によると、現在学校をあげてフレネ教育を推進しており、実験的に通知表での点数評価を廃止しコメントのみにするという改革も行なっているという。他の先生方にもフレネ教育の波が波及し、学校全体でフレネ教育の実践を評価し支えている様子が伺えた。リュミエール高校では、哲学のクラスを中心に見学を行った。この高校のフレネクラスでは、通常では3年生からの必修科目となっている哲学を、2年生から必修とし長い時間をかけて哲学的・批判的思考を生徒たちに身につけることを目指しているという。哲学担当の先生にもインタビューを行うことができた。2020年3月には、南仏ヴァンスにあるフレネ学校を見学した。3クラスある各担任の先生が若い方に変わられ数年たち、特に幼稚園クラスの先生が瞑想やマッサージの時間を活用して、子どもたちにリラックスと集中力アップを図られていたのは興味深かった。日本においては、秋と冬に和歌山と南アルプスにある私立きのくに子どもの村学園小中学校を見学することができた。子どもたちが異年齢学級の中で自由にそれぞれの学びを主体的に創り上げている様子や、彼らが教師の役割をする「大人」たちと、協働しながら生活している姿をこの目で確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
二年目は、本来ならば一年目における教育実践見学の記録化と分析・さらに論文化を行うことになっていたが、一年目の実践見学の予定が二年目にずれ込んでしまったために、本年も主たる成果としてはフランスと日本で子ども主体の教育を先駆的に行なっている学校現場における教育実践の調査を行ったことである。フランスにおいての成果としては、上記でも述べたとおり今年度は南仏ラ・シオタの中高のフレネ教育の実験クラスだけでなく、マルセイユの公立中学校でのフレネ教育の現場を見学できたことは、有意義であった。さらに、ラ・シオタのリュミエール高校でフランス語を担当するマリオン先生からは、フランス語で日本の若者と交流がしたいとの申し出があり、大学の学生たちとリュミエール高校の生徒たちとの文通を通した文化交流も始めることができた。今後より一層の日仏間交流を推進していきたい。ヴァンスのフレネ学校においては、幼稚園クラスでの画期的な実践を見学できたことから、小学校だけでなくやはりそれ以前の幼稚園での教育の重要さが再確認できた。日本での現場調査においては、長年注目していた私立きのくに子どもの村学園を訪れることができたことは大きかった。日本で唯一、教師と子どもの権力関係のない水平的な関係の中で、両者が協働して豊かな学びを構築しながら生活している場だということが理解できた。また、昨年叶わなかった仏ロレーヌ大学のフレネ教育研究者アンリ=ルイ・ゴ先生を大学に招聘し、講演をして頂いたり学生や他の先生方との交流ができたことは、今後の自分自身の研究だけでなく、所属する大学も含めたより広い研究交流の場が広がることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
当初、次年度の三年目は総まとめの年として計画していたが、上記でも述べた通り研究の進捗が多少ずれ込んでいる。そこで、引き続き教育現場での調査を行いつつ、同時にその記録のまとめと論文化に着手していく。現在のコロナ禍の影響により、フランスへの渡航はすぐには難しいかもしれないが、可能になり次第、現地での研究調査を行う。特に仏トゥールーズ市内のある私立学校で、幼小中と通してフレネ教育を実践しているところがあると分かり、出張で市内を訪れた際に校舎だけは確認したが、ちょうど下校時の子どもたちと保護者の様子を見ることができた。次回はぜひ学校内の見学を果たし、フレネ教育を幼小中と連続して行なうことの意義について分析する。また共同研究者であるゴ先生の所属するロレーヌ大学がある北仏ナンシーを訪れ、今後の日仏共同研究の打ち合わせを進めるとともに、市内の公立幼・小・中学校の見学を行う。外国渡航が難しい現状の中で、国内の教育現場の見学は可能な限り行う。昨年度訪れた私立きのくに子どもの村学園については、現在全国に5校の分校があるほどにその数を増やしている。ここは日本で唯一、教師の権威性を廃し水平的な関係の中で、子ども教師の両者が協働して学びを構築できている場だということが理解できたことから、フレネが主張してきた「教師の権威からの脱出」という観点で、改めて日本の私立学校における自由教育の現場をさらに分析していく。同時に、公立学校でのフレネ教育の現場にも足を運び、公教育中でのフレネ教育の意義についても調査を行う。中でも、公立学校という縛りの多い環境に拘らず独自の子ども中心の実践を行なっている、栃木県の公立小の福田奈奈学級や福井県の公立小の西間木紀彰学級を訪れる。さらに2021年初頭には、仏トゥールーズ大の日本教育研究者クリスチャン・ギャラン先生を日本に招聘し、日仏の教育改革についての講演を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
二年目の本年は、所属大学でのフランスとの交換留学協定の締結に向けた仕事が多忙を極め、思ったように教育現場での調査やその記録化が進まなかった。しかし次年度はもう少し時間的余裕ができるので、上記で詳細を述べた通り、引き続き日本国内とフランスの両国の教育実践現場への見学を、コロナ対策には万全を期した上で、可能な限り進めていく。また同時に、フランスから教育学研究者や教育実践家の方々を招聘し、日本で講演をして頂く計画を進める。現在招聘者として交渉をしているのは、仏トゥールーズ大学の日本とフランスの教育の比較研究を行なっている教育学研究者クリスチャン・ギャラン教授にフランス人研究者から見た日本の教育の現状についてお話し頂くか、もしくは南仏のマルセイユとラ・シオタにおいて中学校と高校でフレネ教育を実際に実践されている先生方に幼稚園・小学校でのフレネ教育実践と中学校・高校でのそれとの連続性や連携についての詳細を伺うか、のお二方であるが、どちらかの招聘を実現し講演会を行う。さらに、フランスで実際に出版され教育現場にて使用されているフレネ教育の学習教材について、特に国語と算数用のカード教材、また「学習文庫」と呼ばれる理科・社会用の教材について、幼児から中学生までのものをまとめて購入する。また、教育現場での実践を記録し編集を容易にするためのipadを導入する。
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