研究課題/領域番号 |
18K13074
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
武井 哲郎 立命館大学, 経済学部, 准教授 (50637056)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 複線化 / 教育的ニーズ / 一条校 / フリースクール |
研究実績の概要 |
COVID-19の影響により当初予定していたフィールド・ワークをほとんど実施することができなかった。そこで、これまで蓄積していたデータの再分析に時間を割いた。具体的には、困難を抱えた子どもの支援に携わるアクターが拡がり、学習の場や形態をめぐる選択肢が増えるなかにあって、個別ニーズへの応答可能性を高めながらも複線化の進行を抑制するためにいかなる方法がありうるのかについて検討を加えた。得られた知見は次の二つである。 第一に、子どもの特性や背景に起因する「切実さ」に応じた資源配分を一条校の枠外にまで拡張させて行う必要性である。学習の場や形態をめぐる選択肢の増大が既存の学校とあわない子にとって喜ばしいものであるにせよ、一部の教育実施主体による「エリート」の囲い込みが起これば公教育の複線化に歯止めがかからなくなる。COVID-19の影響による非通学型の学習機会の拡大に乗じて保護者らの「選好」を刺激する団体が跋扈するのを防ぐためにも、「切実な要求」への応答責任を果たす教育実施主体には、一条校か否かを問わず公的な認証や公費の助成を与えることが考えられてよい。 第二に、多種多様な子が集える共生の場づくりを通常の学校や学級で進めることの重要性である。「切実な要求」に応答する場が一条校という枠の外にばかり作られることになれば、それらが通常の学校や学級からドロップアウトせざるを得なかった子たちの「受け皿」として位置づくことにもなりかねない。よって、学級の規模や教員の定数を見直したり、教員と異なる立場にあるスタッフの拡充を図ったりすることが、通常の学校において不可欠となる。また共生の場づくりは、一つの学級に複数の教員やスタッフが常時かかわるような体制を構築するなど、子どもへの対応にかかわる「わからなさ」を大人の側が共有しあえる環境を手に入れるプロセスのなかで実現されうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでに蓄積していたデータの再分析が行えたことは、本研究の目的を達成するうえで有益ではあった。しかし、COVID-19の影響によりフィールド・ワークがほとんど実施できなかったことは、研究の進捗という点で大きな障害となった。学校の内外に組織されるネットワークについて事例間の比較分析が行えるほどには、事例調査が進んでいない状況にあると言わざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の影響がいつまで及ぶかにもよるが、フィールド・ワークが再開できる環境になり次第、速やかに動き出すことを予定している。2016年に成立した「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の影響により、フリースクールとの連携に乗り出す教育委員会が急速に増えつつあることから、不登校児童生徒支援をめぐる官/民の枠をこえたネットワークの存在が日本の学校文化にどのようなインパクトを与えるのか、追加で事例調査を進めていきたい。 なお、2022年度中にフィールド・ワークを再開することが引き続き困難となった場合は、別の研究でラポールを構築しつつあるフリースクールを通じてできるだけ調査を進めていきたいとも考えている。オンラインでのヒアリングを活用しながら、研究を途絶えさせないよう努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響によりフィールド・ワークの実施が困難となり、旅費の支出が当初の計画より大幅に減少した。その結果、次年度使用額が生じ、補助事業期間の延長を願い出ることとなった。 使用計画として、COVID-19の影響が収束した場合には、調査活動に要する旅費や謝金として、その多くを執行する。COVID-19の影響が続き、フィールド・ワークの再開が困難となった場合は、オンライン・ヒアリングに対する謝金や文献検討に必要となる物品(書籍)の購入費として執行する予定にある。
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