本研究は、教育における対話実践の理論を、ローゼンツヴァイクを起源として捉え直すことで、「聞く」という観点から対話のあり方を構想し直し、教育思想史に対話のあり方についての新たな理論的・実践的なインプリケーションを示すことを目的として開始された。 4年目である本年度は、2年前に国際ローゼンツヴァイク学会で発表した内容を論文としてまとめ、『ローゼンツヴァイク年報』(Rosenzweig Jahrbuch 12)に掲載することができた。また、昨年度整理した自由ユダヤ学舎の創設経緯や教育目的などを踏まえ、対話概念からローゼンツヴァイクが構想したユダヤ人のための教育を考察した。具体的には、ユダヤ人共同体のための教育が、ユダヤ人のためであるにもかかわらず、むしろ他の諸民族との対話に開かれる過程を含んでおり、それこそがユダヤ民族の特殊性であることが考えられていることを明らかにすることを試みた。この内容は現在論文としてまとめている段階である。同時に研究を進める中で明らかになった課題として、ローゼンツヴァイクは晩年に聖書翻訳に取り組み、共同体の変革を試みていたが、彼にとって翻訳は対話であった。そのため、翻訳がいかに対話として捉えられているのかを、彼の翻訳論と対話の構造を理論的に述べた主著『救済の星』から明らかにする必要がある。また、こうした試みが、当時のドイツにおいていかに特殊だったのか、その特異性を教育制度や別の教育実践から位置付ける必要がある。
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