2022年度には研究のまとめと総括を行った。COVID-19パンデミックの影響により、2020年、2021年に予定していたタジキスタンとキルギス共和国での現地調査ができなかったが、ウズベキスタンとタジキスタンの言語政策に関わる国家基本構想を入手し、比較分析を行った。また、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス共和国とタジキスタンの4各国の憲法、言語法、教育法における国家語、ロシア語と少数民族語に関する規定と各国の教育統計と教育課程を比較分析した。次に、各国政府、世界銀行とユネスコによるCOVID-19の教育に与えた影響に関する報告を分析した。分析の結果、各国の言語教育政策において国家語(ウズベク語、カザフ語、キルギス語、タジク語)教育の強化と英語教育の改善・拡大に向けて取り組みがなされているが、少数民族語教育の課題(教員・教材の不足、教育施設の劣化、教育内容の過重負担等)が継続的に放置されていることが明らかになった。特に、オンライン学習は国家語とロシア語のマジョリティ言語を中心としており、少数民族語での電子教材・授業配信などが行われていなかったことを指摘できる。 一方、2022年2月24日に起きたロシアのウクライナへの侵攻は各国の言語使用状況に影響を与えていることも明らかになった。フェイスブック、インスタグラム、ツイッターの各国での書き込みを分析した。ロシアがウクライナでのロシア語話者住民の保護を侵攻の一つの理由にしていることから、中央アジア諸国内のロシア語話者住民のロシア語を母語として使う権利保障について社会的議論がみられる。しかし、ロシアの侵攻への批判、ウクライナへの支持、また民族意識の高揚の一環としてロシア語を意図的に使用しない姿勢がより顕著になっている。このことは、中央アジア諸国におけるロシア語教育にボトムアップレベルで影響を与える可能性が高く、注視していきたい。
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