研究課題
本研究は、アラブ諸国における高等教育質保証の様相を明らかにすることを目的とし、平成31年度(令和元年度)は主に湾岸アラブ諸国における外国大学分校を質保証について、主に国家とは一定の距離を持つ機関(非政府機関など)による取り組みを検討した。アラブ首長国連邦(UAE)の首長国の1つであるドバイは、外国機関を優遇するための経済特区を整備し、その枠組みの中で外国大学分校が展開することで、国家的な質保証制度の適用を免れながらも、首長国独自の制度を基にして分校のプレゼンスを向上させてきた経緯がある。一方で、カタールについては2010年代以降に最高教育評議会高等教育機構による国家的な第三者質保証制度が整備されている状況はあるが、外国大学分校への影響は限定的であり、分校に対しては実際には政府系非政府機関であるカタール基金が独自にその質の保障に関与していることが明らかとなった。このように、湾岸アラブ諸国では、高等教育部門に対しては一般的に国家による統制が強い一方、外国大学分校については国家とは一定の距離を持つ機関がその質保証に影響を及ぼしている状況がある。これらの成果は、中島悠介「カタールにおける外国大学分校の展開-「公・私の曖昧さ」の視点から-」『留学交流』vol.109、日本学生支援機構、2020年、12-17頁において公表した。また、中島悠介「ドバイにおけるフリーゾーンと外国大学分校-分校は「砂上の楼閣」なのか-」『けいはんな学研都市地域を軸とした教育システム輸出拠点の形成研究会報告書』国際高等研究所、2020年(印刷中)として刊行される予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成31年度(令和元年度)は、UAEおよびカタールといった湾岸アラブ諸国における外国大学分校を対象に、政府機関とは一定の距離を持つ機関による質保証の関与の様相を明らかにすることを目的としていたが、ある程度達成できたと考えられる。上記の研究成果を公表することができたことに加え、これらの機関における研究者・実務担当者と交流することができ、今後も継続的に研究協力を得ることが期待できる。一方で、本年度のもう1つの目的であった外国大学分校の内部質保証の取り組みについては、新型コロナウイルス禍により年度末に予定していた現地調査が困難となったため、文献レベルでの研究にとどまることとなった。令和元年度末に発生した新型コロナウイルス禍により、現状として、湾岸アラブ諸国においても実際に現地を訪問してインタビュー調査をしたり、文献収集を実施することが困難になっている。こうした状況に対し、しばらくの期間は改善を見込むことは難しいだろう。よって、令和2年度は必要に応じてすでに関係を構築している高等教育機関の教職員を中心にe-mailや電話等で連絡を取り、情報を収集することに努めたい。
今後は、申請者がこれまでに関係を構築しているエジプトおよび湾岸諸国における高等教育機関の内部質保証の仕組みを明らかにしていく。特に、国家的な第三者質保証機関に対応する形で、どのように高等教育機関の内部質保証の仕組みが整備されているのか、学部や専門分野に応じた取り組みや、どのように質保証の中でローカル性が重視されているのかといった点を考察していきたい。具体的には、エジプトのアズハル大学における伝統的なイスラーム教育や、国家の権限が強いUAEの連邦立大学の教育研究や組織構造などに焦点をあて、大学内部でどのような質保証の仕組みが整備されうるのかを検討していく。しかし前述の通り、令和2年度は新型コロナウイルス禍の影響により、現地調査が著しく制限される可能性が高い。そのため、今後はすでに収集しているアラビア語・英語の質保証関連の文献資料を分析するとともに、アラブ諸国におけるアズハル大学やその他の公立・私立大学の質保証関係者に対し、e-mailによる調査やスカイプ等によるウェブインタビューを実施することを検討している。
平成31(令和元)年度末に予定していたアラブ首長国連邦およびカタールへの現地調査が、世界で発生した新型コロナウイルス禍により制限されることになったため、十分に外国旅費が使用できない状況となった。また、新型コロナウイルスが蔓延したのが年度末であったため、代替の用途に予算を使用することが困難であったという経緯もある。以上の状況から、令和2年度にはアラブ諸国への現地調査を積極的に実施することを計画している。しかし、現地における状況が改善されず調査の実施が困難な場合は、米国で実施される予定の国際学会(比較・国際教育学会など)に参加・発表することや、本科研の過去3年間の成果を最終報告書として刊行することを検討している。
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ウェブマガジン留学交流
巻: 109 ページ: 12-17
教育研究(大阪大谷大学教育学部)
巻: 45 ページ: 29-51
志学(大阪大谷大学志学会)
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