今年度は、第二の課題である「孤立した子どもたちへの支援策(以下、AICSと表記する)」の構築過程の解明、第三の課題である不登校の子どもたちの教育機会の保障に必要な諸条件の解明を目的としていた。昨年度に引き続き新型コロナウイルスが蔓延し、基礎疾患を抱える同居家族がいる状況においては、第二の課題の解明に必要な海外渡航調査を実施するうえでは、家族全員のワクチン接種が必要不可欠であった。しかしながら、5歳未満の子どもへのワクチン接種が10月下旬まで開始されず、最終的に海外渡航を断念せざるを得ない状況となった。 こうしたなか、不登校の子どもたちの教育機会の保障に必要な諸条件の解明という最終課題を達成しうるよう、改めて第二の研究課題を検討し直した。結果、第二の課題をAICSの実施の現場における困難への対応の解明に置き換えることで、日本の不登校支援の実施状況との比較を通して、最終課題の達成を試みるという方策をとった。 具体的には、AICSの制定に大きな影響を与え、実施の現場に携わる当事者団体である「孤立した子どもの親の会(Isolated Children’s Parents’ Association,以下ICPAと表記する)」のウェブサイト資料を分析した。そして、この分析結果を昨年度までに収集分析した日本の不登校支援と比較することで、日本の不登校支援が前提としている支援観を考察し、そこに根差す問題を浮かび上がらせることを目指した。 分析の結果、日本の不登校支援においては箱モノの設置拡大が図られ、持続可能性と教育の質の面で課題があることが浮かび上がってきた。この結果をまとめた論文を「日豪の不登校支援の比較分析――教育機会確保法とAICSにもとづく施策およびICPAの活動に着目して――」と題し、岩手大学人文社会科学部紀要『アルテスリベラレス』112号に投稿した(2023年6月に刊行予定)。
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