研究課題/領域番号 |
18K13105
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
松島 のり子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (20727622)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 幼稚園と保育所との関係 / 通知 / 1963年 / 保育行政 / 保育政策 / 保育制度 / 幼保一元化 |
研究実績の概要 |
2022年度は、1963年「幼稚園と保育所との関係について(通知)」(以下「通知」)について、前年度各地域で収集した資料の整理、分析を進め、研究成果の発表と、論文にまとめる作業に取り組んだ。 「通知」発出前の動向については、「通知」で言及された保育所措置児童の厳正化に関わって、「保育に欠ける」規定の解釈の変遷、および、それが保育を保障する機能に影響を及ぼしていたことを史資料の分析から見出した。また、「通知」発出までの過程として、文部省初等中等教育局長・福田繁と厚生省児童局長・黒木利克の著作や雑誌記事等から、「通知」をめぐる政策的意図を検討した。「通知」は、幼稚園普及促進の「ビジョン」として義務化と4、5歳児重視に言及するとともに、幼稚園と保育所の重複・偏在を避けるよう地方行政の連絡・調整を促そうとしていた。地域によって異なる当時の現状を許容しながらも、制度規定に即した幼稚園と保育所のあり方を明確化し、周知した。「通知」というかたちで公にすることにより、幼保をめぐって直面していた課題を打開し、両者の関係調整を図ろうとしており、幼稚園と保育所の「共存共栄」がめざされていた。 「通知」発出後の動向については、1966年に文部省が実施した「幼児教育の普及状況調査」について、山口県文書館所蔵の資料に基づき、文部省と厚生省、文部省から都道府県教育委員会、さらに都道府県から市町村への通知・説明と、行政の連携が進められたことを明らかにした。また、「通知」が地方自治体でどのように受けとめられ、いかなる影響を及ぼしたのか、富山県における幼児教育振興と地方行政の連携について、資料の分析、考察を進めてきた。「通知」の影響は地域によって多様な様相が窺われる。引き続き、収集してきた各地域の史資料の分析に取り組み、「通知」発出後の実態の解明に努めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度に収集した各地域の「通知」に関する史資料の分析を進めることに、想定していた以上の時間を要している。幼稚園と保育所との関係や、それぞれの普及状況と、「通知」前の過程やその後の経過には、地域ごとのさまざまな要因が関わっている。各地域の実態として、「通知」後に講じられた施策、自治体全体の施策と保育・幼児教育関連の施策との関係、幼稚園・保育所の関係者の動向等、一つひとつをていねいに捉えようとすると、「通知」に関する資料にとどまらず、各自治体の状況を把握できる多様な資料の収集も必要となる。「通知」をめぐる一連の動向を表層的にさらうだけにならないよう、調査できた地域について、それぞれの実情を掘り下げていくようにしたい。 「通知」やその関連資料の所在を確認できた都道府県は限られるものの、地域における「通知」の受容やその後の影響の有無など、地域の実態を史資料に即して実証的に明らかにできるよう、また、「通知」の日本の保育史・幼児教育史における位置づけを検討し、見定められるよう、分析・考察を進め、成果をまとめていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は地域の史資料の分析や、成果をまとめていく作業を進めてきた。2023年度は、これらに関連して、引き続き必要な資料調査に取り組みつつ、これまで入手した史資料をていねいに分析していく。それらを通じて、「通知」が、地域の幼稚園や保育所にどのように影響したのか、関連する幼稚園・保育所の施策や全国的な政策動向にも目を配りながら、当時の時代や地域の状況に即して実態を明らかにしていきたいと考えている。 2023年度も、さらに研究期間を1年延長して実施させていただくことになった。地域の史資料を集め、分析を進めるとともに、「幼稚園と保育所との関係について(通知)」の、日本の保育史・幼児教育史における位置づけを考察していく。その際、幼稚園と保育所とをめぐる議論や関連施策に内包されている、人びとの「保育」「幼児教育」観や、「幼稚園と保育所との関係」をめぐる課題の本質に迫れるよう、丹念に史資料を読み解いていきたい。 以上をとおして、「通知」が出されるまでの過程や政策的意図、「通知」の内容や実際と他の政策等との関連、「通知」が各地域や幼稚園・保育所関係者等に及ぼした影響や変化の実態、という3つの軸で、研究の成果をまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度に行った地域調査に続けての、当該地域を対象とした必要な資料の収集や、未調査の地域を対象とした資料調査について、想定していただけの調査を十分に行うには至らなかった。そのため、次年度使用額が生じることとなった。2023年度も研究を継続し、地域の「通知」をめぐる影響や実態を明らかにできるよう調査を進める。あわせて、研究成果の発表や総括していく作業にも使用する予定である。
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備考 |
〔図書紹介〕松島のり子「太田素子・湯川嘉津美編『幼児教育史研究の新地平―近世・近代の子育てと幼児教育―』上巻」、『人間教育の探究』第34号、日本ペスタロッチー・フレーベル学会、2022年、81-84頁 〔シンポジウム記録〕松島のり子「指定討論Ⅱ」(「幼児教育史研究の成果と課題―『幼児教育史研究の新地平』の検討を踏まえて―」)、『幼児教育史研究』第17号、幼児教育史学会、2022年、65-68頁
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