研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)は高い割合で併存しており、精神疾患の診断および統計マニュアル-第5版(DSM-5)ではASDとADHDの併存診断が認められるようになった。ASDとADHD、それぞれの疾患で、前頭前野、小脳、および大脳基底核の構造異常が報告されているが、ASD・ADHD併存患者の脳構造の特徴は明らかにされていない。そこで本研究では、2つのサイト(福井大学と大阪大学)からリクルートされた比較的大きなサンプルを使用し、ASD・ADHD併存患者の脳構造の特徴と発達的変化を明らかにすることを目的とした。 92人のASD・ADHD併存患者と年齢のマッチした141人の定型発達児(5-16歳)に対して構造的MRI(surfaced based morphometry)を使用し、その脳容積を調査した。前頭前野、小脳、および大脳基底核の脳容積に有意差を認めなかったが、ASD・ADHD併存患者は、定型発達児よりも左中心後回の体積が有意に低かった(p = 0.018, FDR-corrected)。さらに、それは児童期と前思春期のみに有意差を認め、思春期では有意差を認めなかった。この結果は、左中心後回の成熟遅延に起因する異常な体性感覚が、ASD・ADHD併存患者の中核症状につながっている可能性を示唆している。この成果は2019年に英国科学誌Translational Psychiatryに掲載され、2020年のAmerican Academy of Child and Adolescent Psychiatry’s 67th Annual Meetingで発表された。
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