愛着関連障害(反応性アタッチメント障害・脱抑制型対人交流障害)は、児童虐待や不適切な養育(マルトリートメント)により養育者との安定した愛着形成が阻害されることで発症する。本研究の目的は、愛着関連障害と発達障害の鑑別困難を克服するため、児童青年期における両者の中間表現型としての脳形態・機能・神経ネットワーク、認知/行動指標データなどの発達段階における変化を、定型発達児を対照に検証することである。 反応性アタッチメント障害(RAD)の病態解明を目的として、RAD児と定型発達児を対象に実施した脳MRI画像を解析した。その結果、RAD 群の左側一次視覚野の灰白質容積が定型発達児と比べて有意に低下し、感受性期解析では、4~7歳の被虐待経験、虐待種類の併存数とネグレクト経験が灰白質容積減少に有意な影響を及ぼしていることが示された。また、DTI(拡散テンソル画像)を用いた白質微細構造解析では、脳梁・放線冠・前視床放線においてFractional anisotropy(FA)値の増加を認めた。認知や感情調整に関連する白質路の形態不全はRAD児の問題行動に関わる臨床症状の理解につながる所見と示唆された。さらに、被虐待児ではオキシトシン受容体遺伝子の特定領域のDNAメチル化が増加し、他者との愛着形成に重要とされる左前頭眼窩皮質の容積低下と関連しており、その容積低下が子どもの愛着不安とも関連していることが示された。 臨床心理指標、脳MRI画像、遺伝子データとの関連について、発達障害児の被験者を加えた追加解析を行い、引き続き成果報告および社会発信に取り組んでいく。本研究成果は、子どもや青年の愛着関連障害と発達障害の鑑別理解および病態解明に基づく臨床応用に貢献していくものと考えられる。
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