研究課題/領域番号 |
18K13124
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
山本 寿子 東京女子大学, 人間科学研究科, 研究員 (90812579)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多感覚知覚 / 感情知覚 / 視聴覚統合 / 養育経験 / 生涯発達 |
研究実績の概要 |
本研究は,他者とのコミュニケーションを通して他者の情動知覚様式が形成される可能性をふまえ,顔と声からの多感覚的な情動知覚に,養育経験をはじめとするコミュニケーション経験がもたらす役割を明らかにする。そして,情動の多感覚知覚を生涯発達の観点から解明することを大きな目的としている。 平成30年度は,子どもとのコミュニケーション経験の有無が,他者の情動を多感覚的に捉える様式にどのような影響を与えるかを検討するため,18歳から50代までの養育経験のある成人と養育経験のない成人を対象に,多感覚的な情動知覚様式を調べる行動実験および視線計測,また共感性を調べる質問紙調査を実施した。並行して,成人期の情動知覚様式の特徴を捉えるため,同様の知覚実験を5歳から12歳までの子どもにも実施し,成人の知覚様式の特徴との比較も行った。 その結果,(1)養育経験のある参加者は他者志向性が高く,養育経験がなく他者志向性の低い参加者に比べて顔に表れた情動を重視する傾向が見られることが明らかとなった。これに加え,(2)多感覚的な情動知覚の様式は加齢によっても大きく変化し,20-30代に比べて40-50代は顔が表す情動を重視しやすいこと,(3)このような加齢による情動知覚の変化は多感覚的な音韻知覚よりも顕著であること,(4)成人は子どもに比べれば声に表れた情動を重視しやすく,その際,子どもよりも話者の目元を見ているというように,生涯を通して多感覚的な情動知覚の様式が変容する可能性が示された。 このように,成人期においては養育経験の有無,共感性,年齢の要因が絡み合うことで,顔と声から多感覚的に情動を読み取る様式が変容する可能性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,養育経験のある成人と養育経験のない成人を対象として,多感覚的な情動知覚様式を調べる行動実験を実施し,データ収集が完了した。知覚データと質問紙調査,視線計測の一部についてはデータの解析まで完了しており,解析が終わった結果について,随時学会および研究会での発表を行った。これに並行して,査読つき学術雑誌への投稿準備も進めている。さらに,実験の結果から,当初の目的であった養育経験の有無のみだけでなく,新たに,年齢や共感性も多感覚的な情動知覚様式に影響を及ぼすことも明らかとなり,今後はこの点からも考察を行っていく予定である。 平成31年度以降には情動表出の測定と,情動知覚の様式における神経基盤の検討を行う予定であり,これらの準備にもすでに着手している。その一環として,磁器刺激装置を購入し,予備的検討を進めている。このように,研究は計画の流れに沿って順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
多感覚的な情動知覚の様式は,コミュニケーション場面で他者がどのような情動表出を行っているかを見聞きすること,またそれによって自身がどのような表出の仕方を行っているかといった相互的なダイナミクスによって形成される可能性が考えられる。そこで,今後は多感覚的な情動知覚の様式について,自身およびコミュニケーションを行う相手がどのように顔と声で情動の「表出」を行っているかとの関連から検討を行う。次年度は情動表出を多感覚的に捉えるという試みのため,映像や音響の解析方法および表情筋の測定方法を確立させ,実験を実施する予定である。 また,これまでに収集した実験データのうち,視線計測データについてのさらなる解析を進め,養育経験がある成人と養育経験のない成人とで,顔と声から情動を読み取ろうとする際の注視パターンに違いが見られるかを引き続き検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度は,情動表出を多感覚的に測定するための生理計測機器および消耗品(電極など)の使用を予定している。平成30年度に予備的に生理計測機器の測定準備をした際,この消耗品に多くの使用額が必要になることが見込まれたため,2018年度の支出予定額の一部を次年度使用額とした。
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