研究実績の概要 |
本研究の目的は、こども文化のなかでも特に1950-60年代の複製技術に媒介された音楽文化を〈対象〉とし、メディア論の分析枠組みを〈方法〉として導入することで、戦後日本のこども文化の再編を理論的・実証的に解明することにある。本年度の研究計画の主な課題は、第一に、理論的研究としてこども文化を研究するためのメディア論的な方法論的立場を確立すること、第二に、実証的研究として「送り手―テクスト―受け手」の総合的考察し、またアーカイブを整理することであった。 これらの成果として、本年度はこれまでの研究成果の集大成となる単著『「未熟さ」の系譜――宝塚からジャニーズまで』を新潮社より刊行した。本書は、1920年代の童謡、宝塚、1960年代の渡辺プロダクション、ジャニーズ、グループ・サウンズ、1970年代の「スター誕生!」といった音楽文化を対象とし、日本のメディア産業が近代家族的な子ども観や規範に動機づけられながら、独自のこども文化を形成していったことを明らかにしたものである。 また、本書に収められなかったが、重要な関連研究の成果として、論文「職業音楽家としての 「うたのおねえさん」 ――眞理ヨシコに聞くテレビ番組 「うたのえほん」 のころ」を『東京音楽大学研究紀要』第46集に発表した。初代のうたのおねえさんとして知られる眞理ヨシコ氏に行ったインタビューをもとに、戦後日本社会に固有の職業音楽家である「うたのおねえさん」の成立過程について、占領期からテレビ放送体制の確立へというメディア論的な問題に即しつつ明らかにした。 さらに、本研究の完了にあわせて、鷲津名都江氏より提供を受けた1950-60年代の放送台本、楽譜、写真、映像、音源等の一次資料(約1,000点)について、国際標準記録史料記述一般原則 : ISAD (G)の基準に沿って目録情報の整理を進め、さらにデジタル撮影を進めた。
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