研究実績の概要 |
本研究では、一時預かり事業を担う保育者が実践から得た知識を明らかにすることを目的とし、映像を用いた多声的ビジュアルエスノグラフィー(Tobin, 1989)を実施した。最終年度は、フォーカス・グループ・インタビューで得られた言語データをSCAT(大谷,2008/2011/2019)により分析した。 結果として、一時預かり事業を担う保育者の実践知は、一時預かり事業が行われる保育室の形態や保育者の配置人数によって、異なる傾向が明らかとなった。一時預かり事業が専用の保育室で実施される場合には、保育者には人手不足感が生じること、そのためさまざまな実践知の中でも特に物的環境に依拠した実践知が形成される。一方、通常クラスに同室する形で実施される場合には、人的環境に依拠した実践知が形成される。また、物的環境に依拠する実践知は、馴染みのない場所、保育者と共に過ごす子どもの心境に添うために形成された実践知だが、通常のクラス担当保育者から理解を得ることが困難であることも明らかとなった。 加えて、一時預かり事業の保育場面の中でも、食事や睡眠といった養護に関する場面では一人ひとりの家庭文化が踏襲された実践知が保育者に形成されていること、一方で、好きな遊びをする、園外で遊ぶといった活動を中心とした場面では、家庭文化よりも保育所文化に則った実践知が保育者に形成されていることが明らかとなった。 総じて、一時預かり担当保育者は、子どもにより異なる家庭文化と、自園の保育所文化にはギャップがあり、このギャップを段階を経ながら埋めていくことを意識しつつ、非連続的な子どもの保育を担っていることが明らかとなった。
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