近年、待機児童問題解消を目指した保育施設の増設等によって保育士不足が指摘されている。その背景の1つには保育者の早期離職があり、これは保育の質の低下にもつながる深刻な課題といえる。そこで、本研究では保育士の早期離職を防ぐ園内体制モデルを構築することを目的とし、2018年度から2023年度までに下記の4つの研究を実施した。 1)保育者の早期離職に関する国内の先行研究を整理し、保育者の早期離職に関する研究関心が年々高まり、関連する研究が増加していること、早期離職が多くの保育現場に共通して起こっていることを示した。 2)大阪府内の社会福祉法人を中心とした私立保育施設の施設長等を対象に行った質問紙調査の結果から、保育士の早期離職の実態や早期離職防止のための取り組みの実態を明らかにし、離職率等に関連する要因や取り組みを検討した。①1施設内の正規職員の少なさなど保育施設特有の課題があること、②8割以上の保育施設で過去3年以内に早期離職者がいること、③防止策として複数の取り組みが実施されているが、特に休暇取得の促進といった働きやすい環境の整備が共通していたこと、④早期離職と4年目以上の離職のどちらも防止するためには、園全体での支援体制や意見を尊重する組織風土が必要であること、⑤正規職員率や法人内に複数施設があるかどうかなどが離職と関係している可能性があることの5点が明らかになった。 3)早期離職者の少ない保育施設に対するインタビュー調査・ヒアリング調査を実施し、早期離職を防止する園内体制を明らかにした。特に、①早期離職を防止するための土台として園全体の職場風土を整える必要があり、そのためにはまず管理職や上の立場の職員の「誰に対してもフラット」な姿勢が重要であること、②とりわけ新人を支援するためには重層的な新人教育体制を整え「縦・横・ななめの関係で支援する」必要があることを示した。
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