本研究は、保育者養成校の学生対象に保育現場の危険状況をハザード(事故に結びつく対象)と、それによって発生するリスクに区分して捉え、危険防止のためのガイドラインの作成、及びICTを活用した保育現場において必要な危険予測・回避能力育成のための危険予知トレーニング(KYT)教材を開発・実践し、その有効性を検証することを目的とした。本研究を遂行するため、令和4年度は主に次の2点について実行し下記の成果が得られた。 1)中学校家庭科のふれあい体験における年齢別のヒヤリハット事例を含む危険状況を検討した結果、乳幼児に関する知識やスキルがない中学生だからこそ起こる危険や、中学生が通常ふれあう機会が少ない乳幼児に出会える喜びから生じる危険が示された。また、中学生が子どもたちとの遊びに夢中になりすぎて起こる危険も生起しており、事前指導の必要性が示された。一方で、ふれあい体験に対する中学生の不適切な態度や行動から危険を引き起こす場合もあったことから、事前に家庭科授業の中でふれあい体験への動機付けを中学生に行っておくことの必要性が提起された。さらに、年齢別危険状況の報告件数が異なることが示された。0歳児から6歳児にかけて身体的・精神的・社会的な発達が大きいことから、事前指導では、ふれあう乳幼児の年齢別に具体的な指導を中学生に行うことが必要だと考えられる。 2)質問紙調査結果や保育者へのインタビュー調査の結果をもとに、危険予知トレーニング(KYT)教材を開発した。開発した危険予知トレーニング(KYT)教材は、VR動画を用いて保育場面の危険状況を切り取ったICT教材である。この教材を保育者志望の学生と現職の保育者の両方に使用してもらったところ、保育者志望の学生には言語で説明困難な危険状況の理解を促すなどの効果が見いだされ、現職保育者は本教材を使用することで自身の保育を見直す契機となっていた。
|