研究課題/領域番号 |
18K13151
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
小山 英恵 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (20713431)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 異文化間音楽教育 / 意味志向の文化概念 / 意味付与 / 音楽文化的アイデンティティ / 文化解釈学 / 音楽科の評価 |
研究実績の概要 |
2020年度は、昨年度に引き続き主にドイツの音楽教育学者D.バルト氏の主張する異文化間音楽教育に焦点をあてて更なる研究を進めた。本年度はとくに、バルト氏の主張が、ドイツにおいて1980年代に成立し今日の学校教育にも影響を与えている異文化間音楽教育のあり方をどのように転換させるのか、その意義を明らかにした。バルト氏は、これまでの異文化間音楽教育が民族的‐全体論的な文化概念を基盤とし、そのことによって「私たち」と「彼ら」の二項対立の問題を引き起こしていることを批判する。そのうえで、バルト氏は、ギアーツの文化解釈学に依拠して、異文化間音楽教育が意味志向の文化概念を基盤とすることを主張する。意味志向の文化概念を基盤とすることによって、異文化間音楽教育はその焦点を、音楽理解から人々の認識の仕方の理解へと移し、人々の音楽実践への意味付与の探究に目を向ける。また、意味志向の文化概念に基づけば、民族や国籍や地域に関係なく、意味付与を共有しているときに人々は同じ文化に所属していると捉えられる。このことを前提として、祖国の伝統音楽を自文化とせずに開かれた音楽文化的アイデンティティの形成を支えることによって、「私たち」と「彼ら」の二項対立を克服する。これらの点において、バルト氏の主張が従来の異文化間音楽教育を転換させることを明らかにした。また、このような意味志向の文化概念に基づく異文化間音楽教育のプロセスが、従来の音楽教育の内容的基盤のひとつである音楽学自体も一つの意味付与として相対化しつつ、自己、他者、音楽世界の新たな認識をひらく点に意義を見出した。この成果は、研究論文「D.バルトの異文化間音楽教育――意味志向の文化概念を基盤とすることの意義――」(『教育学研究』第88巻第1号)にまとめた。 この他、日本の音楽科教育について、改訂指導要録の趣旨を踏まえた評価のあり方についてまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画においては具体的なカリキュラムや授業に関する現地調査を予定していたが、世界規模の渡航、移動制限により調査を実施できなかった。また、勤務先での業務形態の変化等に伴う業務の増加を理由として、研究はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当面は移動の自粛が求められることが予想されるため、海外での現地調査を含む当初の研究計画に若干の変更を加え、来年度はドイツの音楽教育における対話や文化に関連する議論のより広い範囲を対象として文献研究および遠隔でのインタビュー調査等を進めていくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
世界規模の渡航、移動制限により現地調査を実施できなかったため次年度使用額が生じた。来年度は、ドイツの音楽教育における対話や文化に関連する議論についてのより広い範囲の文献の購入、および遠隔調査に関わる物品購入等に使用する予定である。
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