研究課題/領域番号 |
18K13151
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
小山 英恵 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (20713431)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 音楽科 / 対話 / 共生 / 異文化間音楽教育 / 鑑賞 / 文化 / ヴァルバウム / 現象学 |
研究実績の概要 |
2021年度の主な研究実績は、次の2つである。1つは、ドイツにおける音楽教授学に関する研究である。ドイツの音楽教育の議論における主体志向と客体志向の対立の克服を試みるC.ヴァルバウムの音楽教授学を取り上げた。この教授学が、M.ゼールの現象学的‐ 解釈学的美学に基づき主体の関心と客体の性質が適合するときに生じる「心を満たす」瞬間を核とする音楽的‐ 美的実践に着目するものであり、「正しさ」ではなく「心を満たす」魅力を規準とする美的批判を包含する音楽創作活動、およびそれを通した自己や世界のコンセプトの組み換えをもたらすこと、また複数の音楽的‐ 美的実践の経験と比較を通して今日の越境文化的な生活状況における音楽的‐美的実践を子どもたちにひらく異文化間音楽教育の意味をもつことを明らかにした。この成果は、『東京学芸大学紀要 総合教育科学系』第73号に発表した。 もう1つは、日本の学校教育に焦点をあてるものであり、多様な文化的背景をもつ他者との共生に向けた音楽科における鑑賞の学習に関する研究である。この研究では、現在の音楽科における多様な文化的背景をもつ他者との共生に向けた鑑賞の学習が、一方で自文化‐他文化の二項対立、固定的な文化観、あらゆる音楽文化に等価値性をみることを前提とする点で文化相対主義に、他方で音楽に内在する美としてのフォルム理解の理論を背景にするという点において、何かしらの真理(本体)を求める本体論に陥っているという、ダブルバインドの状態にあることを指摘した。この問題を解決するために、竹田青嗣の提唱する欲望論における芸術についての洞察を適用し、音楽鑑賞の核心を感動や感銘といった音楽作品に心を動かされる体験におくこと、およびその体験について語り合うテーブルとしての対話を共生の実践それ自体として実施する展望を示した。この成果は、『本質学研究』第10号に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画で予定していた海外調査については昨年度同様、世界規模の渡航、移動制限により実施できなかった。その意味で研究はやや遅れている。しかしながら、2021年度からは研究計画に若干の変更を加え、音楽教育における対話や文化に関連する議論のより広い範囲を対象として文献研究を進めており、その部分での研究は進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当面は移動の自粛が求められることが予想されるため、基本的には、対話を通した共生のための価値観の形成をもたらす音楽学習に関連する議論を広く研究対象とし、文献研究を中心に進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き、感染症の世界的な流行により、海外調査を含む当初の研究計画を遂行できなかったことが次年度使用額が生じた理由である。この額は、次年度には研究課題に関わるより広い議論を研究対象に含めるため、それに関連する新たな文献を入手すること、論文作成に関わる諸経費(英文校正や抜刷印刷、発送等)、および研究遂行に必要となるパーソナルコンピューター等の機器の購入に使用する予定である。
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