研究課題/領域番号 |
18K13155
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
村井 大介 静岡大学, 教育学部, 講師 (80779645)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 授業実践 / 社会的な課題 / 教材化 / 教師 / ライフストーリー / 当事者性 / ESD / 希望 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、授業で環境や平和、人権等のESDとも関連の深い社会的な課題を取り上げる際に、教師はどのように課題への切実さや見方・考え方を深めて、希望(=実現したい願い)を形成しながら、授業を開発し実践してきたのかを明らかにすることである。 研究の1年目にあたる平成30年度は、学会誌等に掲載されているESDとも関連する社会的な課題を扱った授業実践を選定し、教師へのインタビュー調査を実施するとともに、理論的な探究を深めた。 インタビュー調査については、環境・エネルギーの課題と関連する原発事故を取り上げてきた小学校の教諭1名と中・高等学校の教諭1名、人権の課題と関連する障がい者差別の問題を取り上げてきた高等学校の教諭1名から、インタビューを実施した。原発事故を取り上げてきた2名の教師の事例を分析し、①教師の置かれている状況(都市住民であることや、子どもの親であること)が、課題を取り上げる重要な契機になっており、問題の当事者性を意識しながら実践していること、②フィールドワークの経験によって事象への理解を深めていること、③課題を捉える見方は他の社会問題を扱う際にも応用されること、を明らかにした。以上の成果の一部は、学会での口頭発表で公表した。 また、先行研究・先行実践をもとに、次の三つの点から理論的な探究を進めた。第一に、研究方法の基盤になる質的研究について考察を深め、韓国の学会との学術交流の場で発表を行った。第二に、社会的な課題を学習する上で重要になる「切実性」には「生活との直接的なかかわり」と「心に強く・深く感じるさま」の二側面があることを明らかにし、教育団体の機関誌に論稿を発表した。第三に、これまでの探究の成果を応用して、教師の実践習慣に着目しながら、社会的な課題を教材化する実践習慣を身につけるような教員養成での授業を開発し、学会での口頭発表で成果の一部を公表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の1年目として、インタビュー調査を進めることに重きをおいた。当初の計画通り、多様な校種の教師からインタビューを実施することができた。特に、同じ原子力発電所の事故の問題を取り上げた実践を、小学校の事例からも、中・高等学校の事例からも調査することができたため、対比しながら考察を深めることができ、研究成果の一部を学会の口頭発表で公表することもできた。このように当初の計画以上の深まりが得られた一方で、想定している調査件数(6~9件)にはまだ至っていないため、多様な社会的な課題に着目しながら、今後も継続してインタビュー調査を進めていく必要がある。 1年目の研究では、先行研究や先行実践をもとにしながら、①研究方法であるライフストーリー研究、②社会問題を教材化する上で鍵になる「切実性」、③教師の実践習慣、の三点についても、理論的な探究を深めることができ、その成果の一部を論文や口頭発表で公表することができた。特に教師の実践習慣については、既存の文化資本に関する論を参照しながら、大学の教員養成の場での応用可能性についても検討することができ、当初の計画以上に研究の発展可能性を深めることができた。 本研究は、最終的に日本の教育実践の成果を海外に発信していくことも視野にいれている。1年目は、本研究の基盤にもなるライフストーリー研究が教育研究にもたらす可能性について、韓国との学術交流の場で発表することができた。また、2019年8月に東京で開催される国際学会WERA(World Education Research Association、世界教育学会)へ、1年目の研究成果をもとにしたポスター発表を申し込み、査読を通すことができた。 以上の点から、当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、当初の計画通り、研究の2年目は、調査を継続しながら、収集したデータを分析する。調査では、人権や平和をはじめとしたESDとも関連の深い社会的な課題に関する実践を行ってきた教師へのインタビューを実施する。 当初の計画では、学会誌にも掲載されるような実践を行ってきた教師を対象に調査を行うことを予定していた。しかしながら、こうした教師は限られており、1年目も調査を依頼したが協力を得られない場合もあった。そのため、学会誌に掲載された実践に限らず、学会等での口頭発表や公開研究会などで提案された実践も含めて、対象とする授業実践の幅を広げるように変更する。 データを分析する際は、当初の計画の通り、①取り上げる社会的な課題を如何に選択してきたか、②取り上げる社会的な課題に対する切実さを教師自身は如何に形成したか、③取り上げる社会的な課題に対する見方・考え方を如何に深めてきたか、④授業で社会的な課題を取り上げることを通して実現しようとしてきた願いは何か、⑤社会的な課題を教材化する際にどのような工夫や配慮をしてきたか、の5つの視点に着目する。この5つの視点から事例間を比較することで、教師が社会的な課題を扱う授業実践を行うまでの経緯と教材化の視点の特徴、教師自身の変容過程を明らかにする。 これと同時に、1年目の理論的な探究を通して深めた知見から、a)社会構造と教師の実践の関係、b)教師の実践習慣と社会的な課題の教材化、の二つの視点からも検討を行う。このことを通して、これまでの教育実践の特徴を解明するとともに、教員養成へも示唆を提示できるようにすることを目指す。 研究の2年目と3年目は、分析を深めるとともに、学会発表や学会誌への投稿を通して、研究成果を公表する。その際に、国内の学会だけに留まらず、国際学会でも発表し、日本の授業実践を分析した成果を国外へ発信することを重視する。
|