本研究の目的は,既存の移民学習論を検討し、中国・樺太(サハリン)等の残留日本人を取り上げた学習(以下「残留日本人学習」)の目標や内容、方法を明らかにした上で「残留日本人学習」の教材を開発し,授業実践を行ってその意義を検証することである。 本研究の1年目及び2年目は,中国・サハリン残留日本人にインタビューを行い、生活体験や写真等を収集した。また、中国東北部(旧満州)やサハリン(南樺太)を訪れ、満洲移民や樺太移住に関わる歴史的遺構等を調査すると共に,中国やサハリンからの帰国者へのインタビューを行った。加えて,社会科教科書の記述や先行研究の分析等を通して、既存の移民学習論の課題を明らかにし、残留日本人学習の意義やねらい、内容や方法を検討した。その成果は太田満(2019)『中国・サハリン残留日本人の歴史と体験―北東アジアの過去と現在を次世代に伝えるため』明石書店、等にまとめた。 3年目には,残留日本人の対象を帰国した当事者から現地在住の当事者に視野を広げ、フィリピンの残留日本人にもインタビューを実施して教材開発を行った。その成果は太田満(2020)「フィリピン残留日本人理解のための教材開発―残留者のライフヒストリーに着目して―」奈良教育大学紀要69巻(1)にまとめた。 最終年度にあたる4年目には、サハリンに永住を決めた残留者の体験をまとめ(太田満(2021)『サハリン残留日本人の歴史と体験―サハリン永住を決めた人々―』所収)、国際理解教育における残留日本人学習の意義をまとめた(太田満(2022)「残留日本人」日本国際理解教育学会編『現代国際理解教育事典』明石書店、55頁、所収)。また、研究協力者(小・中学校教員)と共にサハリン残留に関わる教材開発や授業実践を行い、残留日本人学習の意義を検証した。
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