本研究の目的は,科学技術の社会的課題について多様な価値観とのバランスに配慮しながら対話・協働によって意思決定・合意形成し,新しい科学技術を取り入れた社会の在り方を「共創」する授業を行うための教材の開発である。2019年度の研究実績は以下の通りである。 (1)開発した教材の実践及び検証:前年度の試行後に改良した教材「生命倫理について考えるコンセンサス会議-生殖補助医療編-」を活用した授業を2つの高校で実践した。1つは希望者対象に放課後に開催されたセミナーで高校1~3年生12名を対象に教材開発者が授業を行った。受講後の高校生の評価は4段階の4が75%,3が25%であった。もう1つは,高校3年生「生物」の授業で授業担当教師が授業を行った。発話分析から,本教材によって議論が散漫にならず集中した議論が行われていること,生徒の意思決定を支援し対話の中で互いの意見を尊重しながら合意形成に向けた議論が行われていること,合意形成にあたっては未来社会の当事者としての意識が見られることがあきらかになった。また,アンケート調査からは関心度や参画意識の向上もみられた。 (2)総合的な学習・探究の時間への活用:「総合的な探究の時間」の探究の過程の充実に向けた支援策として,科学技術の社会的課題を探究課題とし,市民参加型テクノロジーアセスメントの手法を活用して指導計画を作成する方法を提起した。 (3)学会・論文・書籍等による発表:「総合的な学習の探究の時間」の探究の過程の支援策としての市民参加型テクノロジーアセスメントの手法活用の有効性について,文理シナジー学会で報告し成果をまとめた論文を『文理シナジー』に発表した。また,本研究で開発した教材をワークシート型式の小冊子にまとめ教員・学校への配布をすすめ,さらに,教材の一部を『科学的リテラシーを育成する理科教育の創造』に掲載することでひろく社会に公表した。
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