これまでに行ってきた小学校での調査と分析から、替えうたや即興的につくられるとなえうたが、子どもたちの学習を支え、理解を促進するものとして(子どもたちが無自覚であっても)機能しているという知見を得ていた。そこで、2023年度は、幼児期の子どもたちが色板を並べて遊ぶ等の活動をする際に、保育者との相互作用を通じてつくりだしているとなえうたにも研究対象を広げて、調査を展開した。算数・数学的な理解を深める過程でも、子どもたちは即興的にとなえうたをつくり出し、ときにはそれをさらに替えうたにして、楽しみながら学んでいる様子が明らかとなった。これについては日本数学教育学会にて論文とともに発表を行った。 本研究を通じて、小学生が、即興的に替えうたというわらべうたの1タイプをつくり出して楽しみながら学ぶ様子や、幼児がわらべうたのプリミティブな音楽構造を活用しながらとなえうたをつくり出して楽しみながら理解を深める様子が明らかになった。現代を生きる子どもたちにとっても、日本の伝統的な音楽の構造やその原理が非常に身近なものであり、時として無自覚に使用されるものであることは本研究の成果であり、また非常に興味深い事実である。人間と、歌うという行為との原初的な結びつきについて考察を深めるうえでも有用な示唆が得られたと考えている。 残された課題としては、替えうたやとなえうたの音韻論の視点からの考察をすることが挙げられる。子どもたちが即興的に替えうたやとなえうたをつくり出す際に、どのような語彙が選ばれ、またそれらの言葉がどのようなリズムを持っているのかといった点については、研究の余地が残されている。
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