本年度は,FHAO選択コースを設けており,これまで資料提供を受けていた南京外国語学校における授業調査と南京大虐殺に関わる現地での資料収集を行うことができた。これらの調査の成果については「『困難な歴史』を取り上げる道徳教育実践」及び「南京訪問記録」としてまとめた。 調査を行った授業は尚媛媛氏の第10学年の英語選択コース40分2コマであり,この日の授業は「中国のシンドラー」とも呼ばれる何鳳山(Ho Feng-Shan,かほうざん)に関してであった。授業の特徴として,有名なトロッコ問題などのモラルジレンマの例をたびたび出すことで生徒自身の選択について考えさせている点,何鳳山について取り上げる際,より身近である救援者のジョン・ラーベの選択と結び付けている点,「義務の領域」や「アイデンティティ・チャート」などFHAOにおいてよく活用される活動が行われていた点を指摘した。これらの特徴の中で,特にモラルジレンマ問題の例をたびたび出すことで生徒自身の選択について考えさせるという点については,今回授業分析をすることによって明らかになった点である。また,本選択コースではFHAOの手法が用いられていることについてはすでに明らかであったが,アイデンティティ・チャート等の手法が実際の授業でどのように用いられているかについても明らかになった。英語教育での特性を活かして歴史学習を通じた道徳教育を行っているという点で,本授業は意義深いと言える。 「南京訪問記録」においては,歴史的な都市である南京の特徴と,そのような都市を旧日本軍が徹底的に破壊した「南京事件」について詳細に展示している「南京大虐殺記念館(侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館)」を訪問した際に気づいたこと,感じたこと等を報告した。
|