数学的概念の中には、実際の事象や経験を例えに用いること、言い換えるとメタファーが 必要不可欠な単元がある。しかしながら、数学学力の向上が喫緊の課題となっている開発途上国において、メタファーを軸とした研究はなされてこなかった。このような中、研究代表者はメタファーを必要とする抽象的概念である正負の数と加減を取り上げ、アフリカ諸国の低い数学学力の一端にメタファーが機能していないという仮説のもと調査を実施してきた。その過程で、実際の事象や経験を例えとすることに加え、数を直線上の点とみなすメタファーが計算技能の習熟度に大きな影響を与えていることが分かってきた。最終年度では、計算技能の習熟度と、数直線の捉え方の関係の詳細を明らかにする現地調査を実施した。また、数直線の捉え方はに関しては、発達心理学の分野における心的数直線の知見を援用し、分析を行った。その結果、計算技能の低い生徒は数直線の始点(例えば、0-100の数直線では0)のみを頼りに自分の感覚でカウントしてしまう傾向があることや、計算技能の高い生徒は始点と終点、その真ん中を意識し数直線上の点と数を結びつける傾向が強いことが明らかになった。また、実験授業の結果、計算技能が低くとも、数直線の始点、終点、真ん中を意識して捉えられる生徒は、他の生徒と比較して計算技能が向上した。これらから、数を直線上の点として捉え、始点、終点、そしてその真ん中くらいという感覚を持っているか否かが、計算技能の習熟に大きな影響を与えている可能性が示唆できた。また、研究期間全体を通して、概念を伴わない計算の仕方に着目している様子がアフリカ諸国の生徒の多くに見られた。本研究成果の意義、重要性は、計算技能の習熟において、計算の仕方だけではなく、その背景にある数の捉え方の重要性を示せたことである。
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