申請者は、高校生レベルの学習者が年間を通して、10万語(検定教科書20冊分)程度の易しい英文(i minus 1)を能動的に読むことで、英語力が向上することを外部試験で明らかにした。しかし、多読を通してどのような技能が改善されて、英語力に結びついたのか未だブラック・ボックスの状態である。本研究は、多量の英文に触れることで文法・語彙の自動化処理がどのように発達して、読解力へ結びつくのかについて研究を行うものである。 1・2年目は多読による文法習得や語彙習得に関する基礎研究・パイロットスタディー・実験を行なった。多読は偶発学習の1つとして考えられているのでその類の研究も含めて調査を行なった。その結果、多読や偶発学習による語彙習得の研究はこれまで多くなされてきているが、文法習得に関してはほとんどないことが明らかになった。また文法能力(grammatical competence)の習得に関する研究は存在するが、ある特定の文法項目に焦点を当てた文法習得に関する論文はほとんどない。したがって、その分野での研究を進めることにした。 最終年度である3年目は、文法項目の中から不定詞名詞的用法が多く含まれたテキストとそうでないテキストを比較し、学習者が偶発学習を通して、文法習得が可能か否かについて実験・分析を行った。その結果、学習者は易しい英文の中で、部分的に習得された文法事項に繰り返し出くわすことで、文法事項をさらに定着させることができることがわかった。これらの結果から、学習者は遭遇頻度が増えることにより目標言語項目へ注意を払い、そのことがさらなる文法習得を活性化させたと考えられる。本研究は、国際雑誌 System (doi: https://doi.org/10.1016/j.system.2020.102250) に掲載されている。
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