本研究は、学士課程教育において日本的特質と注目される「帰属組織モデル」の存在を実証していくことを目的としている。人文・社会科学領域において伝統的に行なわれてきたゼミナール教育はまさにそのモデルの実像といえるものであり、他国にはみられない日本独自の教育・学習モデルとして着目され始めている。しかし、ゼミナール教育に関する実証的な研究は極めて少ない。本研究では、ゼミナール教育の実態・成果・課題はいかなるものかについて質問紙調査ならびにインタビュー調査をもとに明らかにしてきた。 最終年度は、これまでの研究成果を世に送り出すことに注力した。第1には、2020年度の研究成果であるゼミナール教育へのコロナ禍の影響について学会等で報告した。第2には、『日本のゼミナール教育―人文・社会科学領域等の学士課程教育におかえる学習共同体の姿』を上梓した。本書は、帰属組織モデルに言及し、歴史的・量的・質的アプローチという3つの観点からゼミナール教育を捉えることを試みた本邦初の学術書である。その構成は、序章「なぜゼミナール教育に注目するのか」に始まり、第1部「ゼミナール教育の発展過程」、第2部「ゼミナール教育の現状と課題」、第3部「ゼミナール教育のエスノグラフィー」、そして補章「遠隔ゼミナール教育の姿」、終章「ゼミナール教育の過去・現在・未来」である。とりわけ第2部と補章はこれまでの3年間の本科研成果を集約したものである。またその他の章や部についても、その成果をふまえてこれまでの研究成果を整理しなおしたものである。 本書に対する評価も高等教育研究者ならびにゼミナール教育実践者から届いているが、読み手によって注目する部や章が異なっており、多様な読み手のニーズに対応できる成果になったと考える。本書を通じて、高等教育研究において、ゼミナール教育研究を広げ、深めていくための基盤ができたと考える。
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