研究実績の概要 |
本研究は,乳児期発症重症型先天性筋疾患児に対する,意思表出手段の獲得のための支援に留まらない系統的な支援の在り方を検討するために(1)質問紙調査による全国の当該疾患児童生徒に対する学校教育の現状と課題の把握,(2)保護者への面接調査による当該疾患児童生徒の育ちのプロセスに関する知見の蓄積,(3)継続的な教育的係わり合いの実践資料の蓄積を行った。本年度(1)の調査を実施した。当該疾患児の実態や学校における対応の多様性が示された一方で,多くの教師が実態の捉え辛さに課題を抱えていた。認知的な能力は一定程度高いことが推測されつつも自立活動を主とする教育課程に在籍するケースがあること,医療的ケアへの対応に追われ学習時間が制限されること等の課題も多く示された。保護者や病院側との認識のずれから対応に苦慮するケースも見られ、当該疾患児が示す身体症状や障害の状態が、教育上の課題に大きく影響することが示された。(2)について1事例を追加した。3事例の結果から、保護者側も学校側との認識のずれに苦慮していたが、その背景として子どもたちが家庭と学校で示すコミュニケーションの内容や他者との係わりの様子に違いがあることが大きく影響し得ることも示唆された。結果的にコミュニケーション手段や学習内容において、保護者が期待する内容と学校での取り組みに大きな差が生じてしまっていた。(3)について,筆者自身の2事例の実践研究を行い、サインや意思表出手段が明確に確立されていない事例については、視線入力装置を使って遊ぶ活動の中で対象児の眼球運動やYesのサインが明確化し、他の活動への広がりが示された。すでにタブレットを使用して文字での表出が可能な事例においては,算数やプログラミング,詩などの国語科教材等,本人の興味に添った活動を設定することで,主体的な取組の拡大や表出内容の拡大につながり得ることが示された。
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