自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)児において、“逆さバイバイ(手のひらを自分の方に向けてバイバイと手を振る)”のように目に映ったままの他者の動作を模倣することが報告されている。そこで本研究では、他者が何を見ているかを推測する能力とされる「空間的視点取得」に着眼し、ASD児の模倣特性を解明するとともに、指導法を開発した。 (1)2018年度は、少数事例研究計画法、定型発達児との群間比較法、ならびに眼球運動解析などの方法を用いて、ASD幼児児童における空間的視点取得の成立条件を検討した。その結果、「対象物を注視し続けながら他視点に移動する」「他視点を明示的に教示する」等が成立条件として示唆された。 (2)2019年度は、眼球運動および動作解析(モーションキャプチャ)を指標として、ASD児童を対象に、國平ら(2004)を参考にした「手の形課題(体の前に出した両手の動作・形を模倣する課題)」を実施した。上記の条件を踏まえ、誤反応生起時、参加児は被模倣者の手の形を見続けながら、被模倣者の視点に移動し、その見えの変化を観察した。正反応生起時の参加児の視線は、被模倣者の両手を中心に体や顔に停留した(相互的な注視行動の出現)。これらの結果から、他視点からの見えに基づく模倣が生起するためには、被模倣者の手の形に加え、体や顔の向きに着目する必要性が示唆された。 (3)2020年度は、ASD児における模倣特性を評価するために、定型発達児との比較を行った。平均生活年齢4歳5ヶ月の定型発達児25名を対象に、動作解析を指標とした動作模倣課題を実施した。課題では、二人が横に並び、「右手をあげる」といった動作を提示した。その直後に向かい合って並び、「右手をあげる」という動作を再度提示しました。常に横→対面の順で、同じ動作を提示した。その結果、試行を重ねるごとに相手の視点からの見えに基づく模倣の生起数が増加する傾向がみられた。
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