研究課題
今年度は、発達障害児者の余暇とQOLについての調査研究および、海外でのTRPGを通じた教育実践の現地調査、そして国内外で研究発表をおこなった。まず、調査研究は、質問紙調査を通じて発達障害児の余暇活動とQOLの関係性について検討した。対象は発達障害のある中高生36名。西(2008)をもとに自由記述項目と「余暇得点」(10点満点)について回答を求める質問紙を作成し、あわせて子どものQOL尺度(日本語版KINDL)を実施した。回答を集計後,余暇得点によって分類した「余暇高満足群」と「余暇低満足群」のQOL尺度の平均値の差をt検定で分析した結果,QOL総得点の平均は低満足群より高満足群の得点が高い傾向が見られた。また自由記述から余暇高満足群は他者と過ごす余暇を楽しんでいる傾向がみられた。これらの調査結果は2019年3月に開催された日本発達心理学会(東京大会)にて発表した。また、海外におけるTRPGを通じた教育実践についての現地調査、デンマーク、アウゴステンボーにて、TRPGとLARPによる教育を行っている全寮制の中等教育機関「Efterskolen Epos」を見学し同校の教師らと意見交換をおこなった。そして、国内外での研究発表については、2018年9月に熱海市にて開催された「TRPGフェスティバル」にて、学術パネル「教育研究・発達支援研究・メディア研究から見たTRPG・LARPの可能性」を、京都大学のビョーン=オーレ・カム氏らと企画・発表した。また、2019年2月にデンマークのヴェイェンで開催された、ライブアクション・ロールプレイ(LARP)とTRPGの国際会議「Knudepunkt 2019」に出席し、「TRPGS AND AUTISM: FROM COMMUNICATION SUPPORT TO WAYS OF SELF-EXPRESSION」の発表をおこなった。
2: おおむね順調に進展している
当初、初年度の計画であった子どものQOL尺度(日本語版KINDL)を用いたASD児者の余暇活動とQOLの実態調査については達成されている。また、並行して開発を進めているこれまでの実践研究をもとに教育・療育の現場で使用可能なTRPGプログラムのプロトタイプについても現在研究協力者の協力のもと着手しており、次年度(2年目)の早い時期に完成予定である。また、次年度に予定しているASDの診断を受けた知的障害のない10代後半~20代前半のASD児者(20名を予定)を対象に実施する、TRPG活動の事前・事後のコミュニケーション、関連スキルおよびQOLの変化の比較研究についても、協力団体との交渉を既に開始している。
2年目となる次年度は、ASDの診断を受けた知的障害のない10代後半~20代前半のASD児者(20名を予定)を対象にTRPG活動を実施し、活動の事前・事後のコミュニケーションとその関連スキルおよびQOLの変化を比較する。対象者は3~5名を1グループとして、全3回のTRPG活動を行い、対象者の募集は、これまでの研究協力団体である東京都自閉症協会および千葉県自閉症協会の高機能部会などを通して行う。事前・事後の評価尺度として、日本版子どものQOL尺度、子どものコミュニケーションチェックリスト(CCC-2)、精神的回復力尺度などの質問紙を実施する。事前事後に取った尺度の結果は、SPSSなどの統計ソフトを使用して量的に分析をおこなう。同時に、TRPG活動に参加したASD児のうち、面接調査の協力を得られた児を対象に「活動への満足度」および「活動を通して感じた自分の変化」についての面接調査を行う。面接内容はICレコーダーで録音後、逐語録を作成し、質的な分析・検討を行う。分析方法は、テキストマイニング等を採用する。3年目は、新規のASD児者20名を対象に2年目と同様の調査を実施する。同時に2年目までの実践をもとに、教育や支援の現場で使用可能なTRPG活動プログラムおよび活動運営マニュアルの普及版を開発する。以上により、TRPG(会話型ロールプレイングゲーム)を用いた支援が、ASD児者のコミュニケーション支援としての有効性を検証すると同時に、ASD児者のQOLを高める余暇活動としても有益かどうかを明らかにする。
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東京学芸大学紀要. 総合教育科学系
巻: 70(1) ページ: 489-497
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