学齢期人工内耳装用児の機能的アウトカムとして、実生活における社会生活、対人関係能力の実態を明らかにすること、及びそれらの能力が幼児期から学齢期にかけてどのように変化するか、具体的にどのような能力の獲得に遅れが見られるのかを解明するために検討を行った。 ASA社会適応検査を用い、A.言語スキル、B.日常生活スキル、C.社会生活スキル、D.対人関係スキルA~Dを総合した全スキルの、5スキルを検討した。さらに、各スキルの32項目の下位領域を検討した。 全体として人工内耳装用児は健聴児の平均を下回る結果であった。人工内耳装用児群を年齢別にみると、未就学児群ではA~Dのいずれのスキルも健聴児に比べ有意に低かった。一方、小学校低学年群では健聴児に比べ有意な遅れは見られなかった。小学校高学年群では、日常生活、社会生活スキルが有意に遅れている結果であった。年齢群間でみると、就学前までは聴覚経験の不足から全スキルが遅れるが、その後人工内耳により聴覚が補償され、小学校低学年で健聴児の年齢相応にキャッチアップする。しかし、小学校高学年になると再び相対的な遅れが生じ、健聴児との差が開くという逆V字型の傾向を示した。 下位項目の検討では、小学校高学年では対人関係スキルの中の“会話、コミュニケーション”に遅れが生じており、冗談や皮肉の理解、言葉の常識的な受け止め方など複雑なコミュニケーションが要求されるようになり、困難が生じることを示唆していた。 人工内耳装用児の社会的自立のためには、就学前までの介入だけでは不十分であり、就学以降の継続的な介入の必要性を示唆する結果となった。
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