研究課題/領域番号 |
18K13239
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研究機関 | 横浜商科大学 |
研究代表者 |
石橋 嘉一 横浜商科大学, 商学部, 准教授 (40604525)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 批判的思考 / 大学教育 / 学習ポートフォリオ / ルーブリック / 科目横断 / 評価研究 |
研究実績の概要 |
本研究の実績を研究の目的に沿って述べる。本研究の大目的は、批判的思考能力の育成を支援する科目横断的な学習ポートフォリオの開発を目指している。小目的は2つあり、【目的1】では「先行研究から批判的思考能力を測定する方法(テスト、尺度等)と、現状の大学教育で採用されている評価法を整理する。並行して、先行研究の学習ポートフォリオの実証研究を精査し、本研究に適応できる評価実験モデルを定める」。【目的2】では、「目的1の結果から、批判的思考能力を構成する能力要素、習熟度の判断基準を精査し、学習ポートフォリオを開発し、評価する」ことである。 まず、目的1においては、平成30年度に、批判的思考能力についての理論的背景と能力要素を整理した。その結果、相反する評価観点(汎用性と文脈性)があることがわかった。平成31年度(以下、令和1年度と表記)は、この相反する評価観点を、どのように学習ポートフォリオに埋め込むかについて研究を行った。具体的には、質問紙による定量的調査と、インタビューによる定性的調査の結果、学習者が自己の批判的思考能力を評価し、①深く自己内省を行い、②次段階の学習目標を設定するためには、汎用性よりも文脈性が必要とされることがわかった。 この結果は、本研究が目的とする「科目横断的」なポートフォリオの開発には困難な課題となった。なぜならば、科目横断性は汎用性を必要とするからだ。一方、学習者が自己の批判的思考能力を評価するためには、過去の学習経験を振り返る必要がある。したがって、汎用的な能力記述文では、文脈性が削がれるため、学習者にとっては、意義のある内省には至れない。目的2を達成するため、2タイプの学習ポートフォリオを構想した。タイプ1では、能力記述文の汎用性を高め、文脈性を低めた。タイプ2では、能力記述文の汎用性を低め、文脈性を高めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の進捗を研究の目的に沿って述べる。本研究は5つの計画から構成されている。それらは、【計画1】批判的思考能力に関わる能力の構成要素、尺度の整理と体系化、【計画2】開発する学習ポートフォリオの評価実験方法の確立、【計画3】批判的思考能力育成を支援する学習ポートフォリオの開発と予備実験の実施、【計画4】学習ポートフォリオの評価実験の実施、【計画5】開発した学習ポートフォリオの評価分析と成果のとりまとめ、である。 令和1年度では、前年度未完であった【計画3・4】に注力した。特に判的思考能力の評価課題として明らかとなった「汎用性」と「文脈性」に関して考察した。具体的には、2019年2月~3月に12名の協力者を募り、インタビュー調査を実施した。定性データ分析の考察から、自己の批判的思考能力を評価する際には、文脈を想起する必要性がわかった。 この結果の理由には、批判的思考が、学習者の観点からは「将来的・恒常的に使える汎用的な能力」という認識よりも、「過去の出来事に対する反省的思考」として認知されているためであった。自己の批判的思考を評価する際に「過去の出来事を想起する理由には、(1)学年が上がるにつれて、学外学習、学外実習の機会が増えること、(2)学外の多様な他者とのインタラクション(相互作用)が増えること、(3)ゼミまたは専門教育課程の担任から直接的な助言を得る機会が増えること、(4)協働的学習の機会が増え、常に他者(学外受入先指導者、教員、学外学習・実習で同じクループになったグループメンバー)からフィードバックを得る機会が増えること、が考えられた。 一方、184名を対象に質問紙調査を実施した結果、2年生よりも3年生の方が、自己の批判的思考能力の効力感の平均値が高いことが分かった。現在これらの知見の考察を行っている。令和1年度末の評価実験は、COVID-19の影響で中止となった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度は、前項で述べた汎用性と文脈性の高低に差をつけた2タイプの学習ポートフォリオの評価実験を実施し、研究成果をまとめる。当初【計画4】の「学習ポートフォリオの評価実験」は、① 3大学での座学とゼミナール、② 学外学習 (インターンシップ、看護学実習)、において実施を予定していた。 しかし、COVID-19感染症防止の活動自粛の影響で、評価実験対象校の学外実習は全て延期となっている。このため、社会情勢と自粛規制状態の緩和を見計らってから、令和2年8月を目途に、評価実験の推進方策を再考する予定を立てた。したがって、評価実験は、令和2年の後学期以降に実施を予定し、これまでの研究の知見から得られた、能力記述文の汎用性/文脈性の高低に差をつけた学習ポートフォリオを使用し、評価実験を実施することとする。一方で、令和2年秋以降においても自粛要請が継続され、学外実習が延期ではなく、中止された場合は、あらためて、研究デザインを再考し、適切に研究を推進できる方策を練ることとする。 【計画5】「開発した学習ポートフォリオの評価分析、研究成果のとりまとめ」では、上述の評価実験を実施できた場合を想定して記述する。【計画4】の評価実験から開発した学習ポートフォリオの妥当性、適応範囲、研究上の課題について分析し、その分析結果を基に、研究成果を発表する。研究成果は、令和2年度に開催予定の日本教育工学会、① 秋季全国大会(第37回)、② 春季全国大会(第38回)、にて発表予定とする。また、本研究の研究背景、研究から得られた知見は、Webサイトを構築し、公開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力大学の調査準備が想定外に遅れ、授業期間中にインタビュー調査を実施できなくなり、多くの学生が帰省してしまった。そのため、①当初計画していた十分な質的データ量を確保できなくなった(86名中2名のみ協力可)、③研究協力大学が地方に分散しているため、次にインタビューに協力してもらえるのは2020年4月~7 月の前学期中となる。したがって、当該期間にデータ収集・分析し、研究成果の取りまとめを行なう必要がある。 また、令和1年度末には、COVID-19の影響で、評価実験が中止せざるをえない予期できない事態が生じてしまった。このため、次年度の経費は、評価実験を実施するための調査実施費用、データ入力補助費用、必要とされる統計分析ツール購入費用、成果発表を行う学会発表費用などに使用を計画する。
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