本研究は、大学生における批判的思考能力の育成を支援する、科目横断的な学習ポートフォリオの開発を目的としている。目的1は、批判的思考能力の構成要素、熟達度の評価法を先行研究から整理して、評価実験を立案する。目的2は、目的1の成果から批判的思考能力を評価できるルーブリックを考案して、学習ポートフォリオを試作する。試作した学習ポートフォリオを評価実験で使用し、学習者からデータを収集して、批判的思考能力育成のための様々な知見を得るという計画である。 令和4年度の実績は、目的2における評価実験から、主に学習者の学習履歴に関する分析を行った。その概要は看護学部初年次生が履修をする対人コミュニケーション論という人間のコミュニケーションに関する教養科目(以下対象科目と表記)を対象に、毎回の授業から対象科目の学習内容の総括と、活動内容からの学習体験について継続的に記録してもらい、そのデータの分析を行ったことである。主な結果は、課題認識と情報の整理、問題の説明とエビデンスに関する、いわゆる批判的思考能力を構成する基礎的な構成要素と評価項目において、学習者間において相違がみられることがあきらかになった。自由記述のみならず、マインドマップという学習の要点の把握と知識の整理、知識の体系を図式化する手法を成果物として記録する方法も採用し、収集したデータについての分析も行った。これらのデータは概念数の平均値と課題得点の関係について分析結果をまとめて、学術雑誌投稿に向けて執筆中である。当初は教室内の座学のみではく、学外で行われる実践的な科目においても行う計画であった。しかし2022年度のコロナ禍の終息状況が見えてきた状況においても、科目の休講とオンライン化が促進されたことによって、当初の計画通りには進められなかった。そのため、座学で収集したデータから科目横断的に応用可能と考えられる知見について考察を行った。
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