救急場面での心肺蘇生法をはじめとする一次救命処置は、心肺停止患者の予後に大きく関与する重要な処置である。心肺蘇生を行った場合と行わなかった場合では1か月後の生存率に1.8倍もの違いが出ている。一方、視覚障がい者にとって心肺蘇生法は、その講習が晴眼者を対象として視覚情報を前提として行われるため、触れる機会が少ない。しかし社会生活を行う中で、視覚障がい者も心肺蘇生法を実施する機会は十分考えられ、その時適切な対応をとれる様になっておくことは重要である。そこで本研究では視覚障がい者向けの心肺蘇生支援、教育のためのアプリ開発を行っている。このアプリは、救急救命現場において、視覚障がい者が行う心肺蘇生処置の支援を行う機能と、視覚障がい者が心肺蘇生処置の練習が行える機能を持つ。この機能により、視覚障がい者に不足している心肺蘇生法を学ぶ機会を与え、現場での適切な対応を支援できる。 2021年度においては開発しているアプリをある程度の実用に足る段階まで完成度とすることができた。新型コロナウイルス感染症の影響で予定したスケジュールでの実験は行えていなかったが、2022年度終盤に実験を開始することができた。実験結果から開発したアプリがした視覚障がい者の心肺蘇生法の実施の支援に役立つことをある程度示すことができたと考えている。しかし実験の中で被験者の胸部圧迫時の圧迫深度が不十分であることが多く、アプリからの圧迫深度の指示に課題も残ったため、今後の研究で改善していきたいと考えている。
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