研究課題/領域番号 |
18K13251
|
研究機関 | 函館工業高等専門学校 |
研究代表者 |
圓山 由子 函館工業高等専門学校, 生産システム工学科, 准教授 (80723353)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 脳波 / バイオフィードバック |
研究実績の概要 |
本研究の目的は従来高度医療機関や研究機関でのみ行われていたバイオフィードバックによる脳波コントロールトレーニングを地域社会でも実現できるシステムを構築することである。このシステムを実現するために「低コスト」「簡単に使える」「楽しく使える」の三本柱をコンセプトとして開発を行っている。 【効率の良い記録部位の同定】脳波においては集中力に大きく関連すると報告されているアルファ波及びガンマ波帯域に注目した。低コストで脳波計を開発するためには出来るだけ記録チャネル数を少なくする必要がある。低コストかつ効率的な脳波コントロールを実現するために上記の2つの帯域の脳波の振幅が大きくかつ制御しやすい部位の同定を試みた。令和3年度は長岡技術科学大学電気電子情報工学専攻和田安弘教授が所有するBIOSEMI社製全脳型脳波計を用いたバイオフィードバックシステムの構築及び計測を行い、脳の部位ごとのガンマ波及びアルファ波帯域の振幅及びコントロール精度の比較を行った。その結果、振幅の強度に有意差は認められなかった(Wilcoxon signed rank test: P > 0.1, N=5)。しかしながら、コントロール精度は同一人物でも精度のばらつきが大きい傾向があり、有意差は無いもののトレーニング回数を増やすごとに振幅が増大する傾向がみられた。【意欲とコントロール精度の関係】脳波コントロール実験においては測定の際に体調や感想を聞き、記録した。その結果、集中力を向上させたいという意欲が高い被験者はトレーニング効果が高く、有意差も認められた(Krusukal Wallis test, N=1)。【運動及び失敗時の脳波への影響】当システムは常に運動動作の影響を受ける。また、思ったような結果が得られない場合のストレスの影響も考えられる。本研究では指運動中及び動作を失敗した際の脳波を計測し、活動部位の解析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
システムを実現するために「低コスト」「簡単に使える」「楽しく使える」を実現するために以下の項目について解析、開発を行っている。各項目の現状を報告する。【効率のよい計測方法の検討】医療用全能型脳波計による測定を行ったが、有意にアルファ波及びガンマ波が測定しやすい部位は現在同定されていない。しかしながら、頭頂部付近(C3, C4)は体の動きの影響が少なく安定した記録が可能であり、少数ながら有意なトレーニング効果を得られたケースが確認できた。また、計測部位の違い以上に被験者の意欲がコントロール精度に大きく影響することが推測された。【低コスト簡易脳波計の作成】Backyard Brains社製の脳波計を用いたシステムを開発した。しかしながら、電極の固定方法が医療用ネットによるものであり安定性に欠ける。3Dプリンタを使用したヘルメット型の電極固定装具を開発したが、被験者が小児であった場合頭骨の大きさの個人差が大きいため汎用性に欠ける。【支援施設での検証】脳波の振幅の大きさを反映させたゲームアプリを用いた脳波コントロールトレーニングを支援校の協力により行う予定であったが、新型コロナによる影響により実現できていない。
|
今後の研究の推進方策 |
当システムの完成に向けて上で述べた現状を基に以下の項目について今後の方策を検討する。【被験者のやる気を引き出すシステムの開発】従来の研究報告における被験者は積極的な疾病改善の意思をもって実験に参加した可能性が高いと考えた。元々のモチベーションが高い被験者群のため脳波コントロールにおいて安定して有意な精度が示されたと推測する。地域の支援施設で利用する被験者は必ずしもトレーニングに対して積極的ではないケースも考えられる。これらに対して以下の手法で被験者のトレーニングに対する「やる気」を引き出す工夫を施す。1.トレーニングレベル別の閾値の設定: トレーニングの達成段階によりゲームの報酬を得られる閾値を調整する。初期段階ではごく小さな増加であっても加点する。また、振幅が小さくなっても減点はせずモチベーションの低下を防止する。2.指の動作と連動した評価システムの構築: 先行研究においては指の運動が脳を活性化させるとの報告がある(J. Brand et. al, 2020)。指の運動で活性化する脳部位を計測点とし、バイオフィードバックに反映させる。3. ウレタンゲル素材を使用した電極固定器具の開発:発達途上にある子供の頭骨はばらつきが大きいため従来の固定器具では十分にフィットさせることが困難である。電極固定器具にウレタンゲルを使用することで頭骨への密着度を高める。 【新型コロナ感染対策への対応】支援施設に頻繁に訪問しなくても対応できるよう、支援施設職員でも簡単に実施できる脳波コントロールシステムを構築する。簡便な装着が可能な脳波計及びユーザインタフェースに優れた記録システムの構築を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
海外での学会発表2件(Society for Neuroscience, IEEE Engineering in Medicine & Biology Society)及び国内学会1件(第44回日本神経科学大会)に現地参加予定であったが、新型コロナによるオンライン参加になったため旅費分の支出がなくなり、次年度使用額が生じた。余剰分は次年度の国内学会2件(第45回日本神経科学大会, IIAE 2023)の旅費および新型コロナ感染対策として本研究のシステムを支援校で実施するための機材を購入するために使用する予定である。
|