スマートフォンやタブレット端末利用者の低年齢化に伴って有料電子くじの高額課金問題など,国内の児童の不確実な事象に対する判断力の弱さは社会問題化している。新たな消費スタイルが浸透する中,不確実事象に対する合理的な意思決定能力の育成はより一層求められている。実際に諸外国では,意思決定能力と深い関連性がある確率領域の学習内容は小学校段階においても重要な学習内容の一つとして議論されている。例えば現在,オーストラリア,ドイツを始め,少なくとも22か国以上において小学校段階で確率概念に明示的な焦点を当てた学習内容が扱われている。一方で国内の小学校段階では,第6学年に「起こりうる場合の数」が扱われることに留まっており,1968年以降大幅な改訂は行われていない。こうした確率教育の現状に対して,今日の社会情勢に十分に対応できていないことが問題視されている。こうしたことから本研究は,小学校段階における確率教育の検討課題を整理し,学習者の確率・期待値概念の認知内容の特徴を解明し,小学校段階における確率教育で有効な教材の開発を目指すものである。 令和3年度は,確率・期待値概念やそれらに関連する領域の認知調査の分析と小学校段階の学習者を対象にした授業実践の分析を進めた。その結果,小学校段階で既に多様な確率比較の方略を持ち合わせており,そこ含まれた誤認知を適切に修正する教材開発及び教授活動の重要性が示された。加えて幼小接続期も視野に入れた確率カリキュラム設計の必要性が示唆された。これらの一部は,「小学校段階の確率学習における割合的な見方の困難性と課題-中学年を対象にした教育実践の分析を通して-」,福井大学教育実践研究,46,13-21,保育内容領域「環境」における数学概念の内容に関する検討-幼児期における確率概念の遊び・学びの可能性と意義-,福井大学初等教育研究,5,19-26などで明らかにした。
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