研究実績の概要 |
本研究課題は、「被害者」とされる立場に対する、人々の態度形成フレームをモデル化することを目的としている。2021年度は、過年度までの成果をベースに、モデルの実証的な検討を行った。具体的には、被害者が被害発生後にとる「対処方略」が人々にどのように評価されるのかを、「心の知覚」の側面から検討するための実験を実施した。実験参加者には、個人が被害を受けるシナリオ(e.g.,事故にあう)を提示し、被害者への態度を評定してもらった。その際、シナリオ中で被害者がとる事後的な反応を実験的に操作した。一般サンプルを対象にオンラインで実験を実施し、575名から成るデータを分析した。この実験から示唆されたのは、被害者が加害主体への非難や抗議を表明する描写があると、被害者への好印象や共感が高められるということである。そして、そのような効果は、被害者は意思が強いというエージェンシーの心的特性が知覚されることによって媒介された。この知見は、人々が「か弱い被害者」よりも「強い被害者」という像をポジティブに捉える傾向があることを示している。本来は救済の対象となるべき被害者に対して、自助努力が推奨され、ときに被害者非難が生じることの背景要因を示唆する知見である。引き続き、知見の頑健性や現象の境界条件を調べることが目指される。 上記に加えて、2021年度には、不公正に対する第三者的反応を勢力感という要因で検討した論文(Hashimoto & Karasawa, 2021)、公正感受性と集団内の協力行動との関連を検討した論文(Tham, Hashimoto, & Karasawa, 2021)、高齢や精神障害などのスティグマが対象への否定的態度を規定する過程を検討した論文(清水・橋本・唐沢, 2021; Shimizu, Hashimoto, & Karasawa, 2021)などの関連成果が刊行された。
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