研究課題/領域番号 |
18K13269
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
川上 直秋 島根大学, 学術研究院人間科学系, 講師 (80633289)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 評価的プライミング / 潜在指標 / マウストラッカー |
研究実績の概要 |
社会心理学における潜在指標は主に反応時間を応用したものであった。しかし多くの手法で導入されている反応時間差による潜在的態度の推測は、心的処理の結果として現れる結果焦点型の指標であるため、それがどのような処理を反映しているかは必ずしも明らかになっていない。そこで、本年度においては、マウストラッカーという手法を導入し、コンピューターマウスを用いた刺激の分類におけるマウスの軌跡などから人の潜在的認知プロセスが測定できるのかを探索的に検討した。この目的のため、評価的プライミング(ターゲット刺激に対する語彙判断の直前に、ターゲットと評価的に一致したプライムを呈示すると、不一致の場合と比較して反応が促進される現象)を研究対象にした。 まず実験1では、62名の参加者に、ターゲット語が呈示されたらできるだけ早くマウスを使って当てはまるカテゴリー(ポジティブかネガティブ)をクリックする課題を求めた。その結果、プライムとターゲットの評価的成分が不一致の場合には、分類に要する反応時間だけでなく、分類へと至るマウスの軌跡も反対のカテゴリーに引っ張られるというプライミング効果が認められた。このことから、マウストラッカーにおいても、従来の反応時間による指標と同様に、潜在的な処理を測定できる可能性が示唆された。さらに実験2では、評価的分類試行に加えてプライムとターゲットの意味的分類試行を混ぜ同様のプライミング課題を行った。結果、実験1同様、評価的分類試行においてはマウスの軌跡にプライミング効果が現れた一方、意味的分類試行ではマウスの軌跡ではなくマウスが動き出すまでの初動時間にプライミング効果が生じていた。この結果は、評価的判断と意味的判断が異なる認知的処理に基づくという知見と一致すると同時に、マウストラッカーが従来の反応時間のみでは検出されない潜在的な認知処理を測定できることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は、マウストラッカーを用いて実際に潜在的処理が測定できるかを確認することであった。そして、実際にそれを確認することができ、来年度以降の研究へと発展させることが可能である。
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今後の研究の推進方策 |
評価的プライミングという古典的な潜在的心理効果を用いて、マウストラッカーの妥当性が確認されたため、今後は社会心理学的な現象をマウストラッカーを用いて測定していく計画である。具体的には、ステレオタイプや自尊心など、これまでIATなどの潜在指標を用いて検討されてきた対象をマウストラッカーによって検討することで、マウストラッカーの有用性を示すと同時に、マウストラッカーの軌跡や初動時間に現れる結果が、潜在的処理の何を反映しているのかを特定していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が少額であり、適切な使途がなかったため。この金額は今年度の研究成果発表のための英文校正などに用いる予定である。
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