本研究の目的は、生まれ育った社会環境でデフォルトとなっている関係の長さが人の行動理解に影響している可能性を明らかにすることである。具体的には、日本のような関係が長く続くことが期待される社会では、アメリカのような短い関係が期待される社会よりも、応報的に振る舞うことが適応的である。このため、長い関係がデフォルトである社会環境で生まれ育った人たちは、人の置かれた状況や文脈に注意を向けてその人の行動を理解する傾向にあるのに対し、短い関係がデフォルトである社会環境で生まれ育った人たちはその人自身の意図や性格などに注意を向けて人の行動を理解する可能性がある。本研究では、この理論的予測について調査・実験を行い、実証的検討を行う。 2021年度までに、関係が切り替わる生活スタイルを送っていた人は特に新しく関係を結ぶ人のポジティブな行動に敏感に反応するのに対し、関係が継続する生活スタイルを送っていた人はネガティブな行動に敏感に反応することを明らかにした。これらの知見は、従来示されてきた帰属の文化差には複数の調整要因が関わる可能性を示すものであり、研究計画の変更を迫るものであった。2022年度にはこれまで得た知見を学術論文としてまとめ、関係継続の期待が内的帰属・外的帰属に与える影響についてのモデルの精緻化と新たな仮説の導出を試みた。2023年度には新たなモデルをもとに大規模調査を実施する予定であったが、準備が間に合わず、実証的な検討は今後の課題となった。
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