本研究課題では、葛藤状況を観察した第三者が、被害者にどのような反応を示すかによって、被害者の寛容の程度が変化すると仮定して検討を行ってきた。 これまでに、被害者が加害者を許しがたいと思う動機のひとつに、自分には過失がないことを周囲の人に認めてもらいたいという「無過失承認動機」があることを実証的に示し、これが低減されれば、被害者は加害者に対して寛容を示しやすくなることを見出してきていた。 最終年度においては、仮説と一致して、第三者が被害者に対して被害者の無過失を承認するような反応を示すことができれば、被害者の無過失承認動機が低減され、加害者に対する寛容を導きやすくなることを実証的に示した。また、被害者が加害者を許しがたく思う動機として、無過失承認動機だけではなく、相手にも同じ苦痛を経験させたいという「報復動機」もあることを見出していたが、第三者が被害者と加害者の両者が存在する状況において被害者の無過失を承認すれば、被害者の無過失承認動機だけではなく、報復動機をも低減することできることを示した。 このような知見は、葛藤経過において加害者が被害者にどのように対応したのか、被害者と加害者の関係がどのようなものだったのかという、「被害者‐加害者」という2者関係の間に含まれる要因だけではなく、第三者の反応を含めたより広い枠組みにおいて寛容を促進する要因があることを示す点で意義がると考えられる。このようなより広い視点で寛容促進の手がかりを探ることによって、現実に泥沼化している紛争を解決する手段にバラエティを持たせることが可能といえる。
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