研究課題/領域番号 |
18K13275
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研究機関 | 東京女子大学 |
研究代表者 |
福島 慎太郎 東京女子大学, 現代教養学部, 講師 (80712398)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 信頼 / 安心 / 地域社会 / 同類性原理 / 同類結合 / 規範 / 階層データ / マルチレベル分析 |
研究実績の概要 |
先行研究から、集団内部に形成された「安心」は、他者一般に開かれた「信頼」の形成を阻害することが提示されてきた。一方で、日本国内の地域社会を対象とした調査研究の結果からは、これら安心と信頼は相乗的に形成されることが示唆されてきた。しかし、何故このような結果の齟齬が生じているかは十分に明らかにされていなかった。 このような理論的背景の下で本研究では2018年度、1)これら研究間の結果の齟齬が生じる理由を明らかにするための調査を行い、2)安心を基盤として信頼が形成されるモデルの検討を行った。それぞれの概要を以下に記載する: 1)国勢調査データを分析し、地域社会群の住居流動性(操作的な指標として「居住年数が10年未満の住民割合」)を把握した。そして、多段抽出法(1段目で都道府県、2段目で市区町村、3段目で字・町丁目)を用いた地域社会群の選定を行った。その上で、選定した地域社会群に対する質問紙調査を行った。 2)予備的データを用いた分析の結果、以下の2点を明らかにした。① 信頼の「解き放ち理論」と「還元(根ざし)理論」は必ずしも相反するものでは無く、流動性の単位(個人or地域社会)の違いから両立して生じ得る。すなわち、流動性が高い個人ほど、社会的知性としての信頼が形成されていた(→信頼の解き放ち理論)。その一方で、地域社会全体の流動性が高い環境に置かれることで、安心に根ざして信頼が形成されていた(→信頼の還元(根ざし)理論)。② 住居流動性に応じた信頼形成プロセスの背景には、人間関係の自由選択に基づく同類性原理(Fischer, 1972)が関与している可能性があることを示唆した。すなわち、住居流動性が高まるほど、個人単位の人間関係は同類性が高くなるとともに、地域外部に拡張されていた。その一方で、地域社会単位で形成される人間関係は、住居流動性が低いほど同類性が高くなっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画であった「1.地域社会の流動性を把握する」「2.地域社会群に対する質問紙調査を行う」ことに加えて、住居流動性が相対的に高い東京都を対象とした予備的データを用いて「3.安心を基盤として信頼が形成される階層的なメカニズムを検証する」ためのモデルの生成を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の予備的データを用いた分析の結果、① 信頼の「解き放ち理論」と「還元(根ざし)理論」は必ずしも相反するものでは無く、流動性の単位(個人or地域社会)の違いから両立して生じ得ること、② 住居流動性に応じた信頼形成プロセスの背景には、個人単位の人間関係の自由選択に基づく同類性原理が関与している可能性があることが示唆された。 しかしながら、この同類性原理による説明は、「解き放ち理論」に基づく個人単位の信頼の形成プロセスには直接的に適用可能であるものの、「還元(根ざし)理論」に基づく地域社会単位の信頼の形成プロセスに適用することは適切ではない。 そこで2019年度は、地域社会単位の信頼の形成プロセスの背後にあるメカニズムを明らかにする。具体的には、地域社会全体の住居流動性が低いほど人間関係の同類性が高くなっていたことは、個々人の自由選択に基づく同類結合ではなく、住民に共有された社会規範への同調・順守に基づくものであることを示す。 一連の検証結果を通じて、個人単位の自由選択に基づいて信頼が形成されるプロセスと、地域社会単位の安心を基盤として信頼が形成されるプロセスを包括的に整理・提示する。
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次年度使用額が生じた理由 |
質問紙調査を今年度末の3月に実施したため、予算使用が次年度に回された。
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