本研究は、個人レベルおよび集団レベルに応じたプロセスを弁別して抽出するためのマルチレベル分析を行うことで、「安心」と「信頼」が両立する階層的なメカニズムを検討することを目的として行われた。研究を通して、これまでに次の知見が得られた。 第一に、人間関係の流動性が低い個人において「安心」が「信頼」の形成を促進するが、集団全体で流動性の低い環境に置かれることで「安心」が「信頼」の形成を抑制する、という「安心」と「信頼」の階層的な関連が示された。 第二に、「安心」は個人レベルでは主観的幸福感を促進するが集団レベルでは主観的幸福感を抑制し、その傾向は人間関係の流動性が低い環境でより顕著であることが示された。ただし、集団レベルの主観的幸福感の抑制は必ずしも単純に人々の主観的幸福感を下げる負の効果を意味するものではなく、メンバー同士の幸福の相関(他者が幸福であれば自分も幸福であること/自分が幸福であれば他者も幸福であること)を高めることで、メンバー全体の調和を促すことに寄与していることが示唆された。 第三に、集団レベルで「安心」が「信頼」の形成および主観的幸福感を抑制する背後にあるメカニズムとして、「内集団メンバーに対する信頼」が「規範」として作用することで、住民は相手個人を「信頼」せずに個人を取り巻く環境に「安心」するようになることが示唆された。
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