研究課題/領域番号 |
18K13281
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研究機関 | 東京未来大学 |
研究代表者 |
埴田 健司 東京未来大学, モチベーション行動科学部, 准教授 (90757535)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 風評被害 / 原発事故 / リスク認知 / 罹患回避 / 行動免疫システム / 新型コロナウィルス感染症 / 感染予防行動 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、福島第一原子力発電所事故(以下、原発事故)に伴って生じた、福島県産食品等に対する風評被害に関わる心理メカニズムやプロセスを、潜在的社会的認知および進化社会心理学的なアプローチから検討することである。前者については福島県産食品に対する潜在的態度に、後者については病気の罹患回避に関わっている心的メカニズムである行動免疫システムに着目した研究を計画した。このうち後者は、新型コロナウィルス感染症(以下、新型コロナ)が蔓延している状況下(コロナ禍)における人の行動とも関連するため、社会的な意義も大きいと思われる。そこで、行動免疫システムと福島産食品の風評被害の関連に加え、新型コロナに関する認知や行動がそれらにどう関連するかについても検討する研究を計画し、実施した。 具体的には、行動免疫システムの働きに関連している感染脆弱性意識、コロナに関するリスク認知や行動、福島県産食品のリスク認知や評価について、最初の緊急事態宣言発令直後の時期(2020年4月)に調査を行った。得られた結果のうち、主なものは次のとおりである。まず、新型コロナに関しては、1)感染脆弱性意識のうちの感染嫌悪傾向がリスク認知を高めること、2)リスク認知や主観的知識が感染予防行動を促進することが見いだされた。次に、福島産食品のリスク認知や評価に関しては、1)新型コロナに関する客観的知識が福島産食品のリスク認知を低め、評価を高めること、2)感染嫌悪傾向が放射線や原発への不安を高めたり、被災地支援への意図を低下させたりすることによって福島産食品の購買意図が低下することが見いだされた。コロナ禍では感染嫌悪傾向が高まっていると考えられるため、福島産食品の購買低下が示唆される。一方で、科学的な知識を客観的に持つことで、領域特定的ではなく全般的にリスク認知が抑えられることも示されたといえるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題では、福島県産食品の風評被害に関して、A)その維持について、①潜在的社会的認知、②進化社会心理学のアプローチから検討すること、また、B)その抑止についても、①潜在的社会的認知、②進化社会心理学のアプローチから検討する、4つの研究実施計画を立てていた。このうち、研究期間の最終年度であった令和2年度までに、Aの①および②に該当する研究、Bの②に該当する研究については、少なからず研究を実施してきた。しかし、それらも予備的あるいは第一次的な検討にとどまっている部分が多く、研究知見の解釈を補完あるいは深化させる段階にまでは至っていない。また、B-①の研究実施計画については第一次的な検討にも至っていない。そのため、当初の研究目的・計画を達するためには、研究期間を延長して、調査や実験に基づく更なる研究の実施が必要な状況である。 以上の状況に至った理由はいくつかあるが、大きな要因は新型コロナウィルスの感染拡大の影響により、研究実施が困難になったことにある。実験室実験の実施を計画していたが、感染対策が十分にできないことから、実施を断念せざるを得ない部分があった。また、本研究課題では、罹患回避に関わる心理メカニズムと福島県産食品の風評被害の関連を検討することが1つの目的になっているが、この関連についての当初の計画および研究手法は、コロナ禍ではその意味合いが異なってしまい、研究計画・手法を変更する必要もあった。 以上より、進捗状況は総合的に「遅れている」状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、福島県産食品の風評被害の維持と抑止それぞれについて、潜在的社会的認知、進化社会心理学の2つのアプローチで検討するものであり、研究実施計画は大きく4つに分けられる。それらのうち3つについては、少なからずの研究は実施できている状況にあるが、残り1つの計画領域(風評被害の抑止に関する潜在的社会的認知アプローチによる検討)については未実施の状況である。よって、この計画領域の研究を進めることを優先させ、他の計画領域についても、これまでに得られている研究知見をもとにして更に研究を行っていく。 新型コロナウィルス感染症の影響により、研究対象者を実験室に呼び込んで行う実験の実施は、引き続き困難であることが予想される。Webを介した実験を行える研究手法に全面的に切り替え、Web実験の経験がある研究者から協力を得るなど、実現可能な研究実施方法を模索して対応していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた第一の理由は、新型コロナウィルス感染症等の影響により、計画していた研究の実施が困難になり、研究実施に係る研究協力者等への謝金、調査実施費の支出が当初予定よりも少なかったことである。第二に、新型コロナウィルス感染症の影響により、参加を予定していた国内の学会大会が中止あるいはオンライン開催となったこと、海外で開催される国際学会に参加できなかったことにより、旅費および大会参加に係る支出が減少したことである。 次年度使用額は、当該年度に実施する研究の実施に係る物品費、人件費・謝金、学会大会等への参加費、旅費として主に支出する予定である。
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