研究課題/領域番号 |
18K13281
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研究機関 | 東京未来大学 |
研究代表者 |
埴田 健司 東京未来大学, モチベーション行動科学部, 准教授 (90757535)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 風評被害 / 原発事故 / 福島県産農作物 / 購買意図 / 二過程理論 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、福島第一原子力発電所事故(以下、原発事故)に伴って生じた、福島県産食品等に対する風評被害に関わる心理メカニズムやプロセスを検討することを目的とし、風評被害の維持および抑止に関わる心理を、潜在的社会的認知および進化社会心理学的なアプローチから検討することを計画した。原発事故の発生から10年が経過し、風評被害に関わる心理が当初と比較して変化している可能性も考えられることから、令和3年度においては上記2つのアプローチに基づく風評被害の抑止要因を検証するための知見を得るための研究を実施した。 まず、二過程理論に基づいて2013年時点で調査を行った工藤・中谷地(2014)の追試を行うことによって、福島県産農作物の購買意図やそれらに影響する諸要因に変化が見られるか検討した。結果として、福島県産農作物の購買意図に対して負の影響を持つネガティブ感情および放射線・原発不安は低下し、正の影響を持つ合理的判断および知識による判断は上昇していた。しかし、購買意図事態に変化は見られず、2013年時点とほぼ同程度であることが示された。購買意図に対する諸要因の影響については、被災地支援に対する合理的判断の影響が弱くなり、知識による判断の影響が強くなっていた。また、購買意図に対する被災地支援の影響が強くなっていた。 福島県産農作物がどのような属性と結びついているかについても検討した。評価、望ましさ、安全性の3次元において、福島県産農作物は絶対的には否定的に評定されていなかったものの、近隣県であり、原子力発電所を抱えている新潟県産と比較すると低く評定されており、安全性ではこの傾向が顕著であった。これを受け、潜在レベルでも同様の結びつきがあるか確認し、あるようであれば「安全」との結びつきを強める要因や介入方法を明らかにする研究を行う計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究課題では、福島県産食品の風評被害に関して、A)その維持について、①潜在的社会的認知、②進化社会心理学のアプローチから検討すること、また、B)その抑止についても、①潜在的社会的認知、②進化社会心理学のアプローチから検討する、4つの研究実施計画を立てていた。このうち、令和3年度までに、Aの①および②に該当する研究、Bの②に該当する研究については、少なからず研究を実施してきた。しかし、それらも第一次的な検討にとどまっているところが多く、当初の目標・目的を達している段階までは進められていない。また、Bの①の研究実施計画についてはほぼ未着手である。そのため、当初の研究目的・計画を達するためには、研究期間を延長して、調査や実験に基づく更なる研究の実施が必要な状況である。 以上の状況に至った理由はいくつかあるが、新型コロナウィルス関連の影響により、研究実施に困難さが増加したこと、所属機関での職務へのエフォートを大きくせざるを得ず、結果として本研究課題に対するエフォートが下がってしまったことが大きな要因である。また、本研究課題では、罹患回避に関わる心理メカニズムと福島県産食品の風評被害の関連を検討することが1つの目的になっているが、この関連についての当初の計画および研究手法は、コロナ禍ではその意味合いが異なってしまい、研究計画・手法を変更する必要もあった。 以上より、進捗状況は総合的に「遅れている」状況であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、福島県産食品の風評被害の維持と抑制について、潜在的社会的認知および進化社会心理学の視点から検討を行うことを主眼としたものである。今後は、これらのうち検討が進められていない、潜在的社会的認知の視点に基づく風評被害の抑制に注力し、研究を進めていく。当初、実験室実験を中心とした研究実施を計画していたが、新型コロナウィルス感染症の影響により実施困難であることも予想されるため、Web上で非対面でも実施可能な研究手法も併用して研究を進める。令和3年度に実施した研究により、福島県産食品と安全性の結びつきの弱さが購買意図を低下させている可能性が示唆されたため、安全性との結びつきを強める介入方略を検討することを含め、風評被害抑止に関わる潜在的認知過程を明らかにしていくことを目指す。 また、本研究課題のこれまでの研究により、福島県産食品の購買意図に影響する心理変数には改善が見られるものの購買意図そのものは大きく変化していないこと、感染症に対する嫌悪が福島県産食品の購買意図を低下させることが示された。風評被害がまだ収束せず、状況要因等により強まる危険性を孕んでいることが示唆される。購買意図の向上はもとより、低下に寄与する要因を明らかにすることで、この問題の心理学的理解と解決を目標として研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、研究進捗の遅れにより、研究実施に係る研究協力者等への謝金、調査実施費の支出が予定よりも少なかったことが第一である。また、参加および研究成果発表を予定していた学会大会に参加できなかったことも理由として挙げられる。 次年度使用額は、今後実施する研究に係る人件費・謝金、研究実施に必要な物品(実験プログラミングソフトウェアの更新を含む)の購入にあてる。また、研究成果公表に係る学会大会等への参加費や旅費として主に支出する予定である。
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