研究実績の概要 |
最終年度には、22週間にわたる日誌法を実施し、データの解析を行った。具体的に、18-30歳の青年650名に対して、2週間のうち土日を除く10日間調査を行い、将来についてのアイデンティティ、ライフイベント(e.g., 経済状況が悪化した)、ポジティブな感情(人生満足感と幸福感)、ネガティブな感情(不安と抑うつ)について回答を求めた。また、1日目には、パーソナリティ特性に回答を依頼し、パーソナリティ特性の違いによって日常的なアイデンティティ、感情が異なるかどうか検討できるように設計した。さらに、調査期間が緊急事態宣言が発令されていた時期であったため、1日目に行動制限に対する意識(どの程度行動を制限しているか)について回答を求めた。これらの調査において明らかになった知見とは、将来について安心感(i.e., アイデンティティ)を感じているとポジティブな感情を実感するものの、そのような青年は少数であり、大半は不安を感じている傾向にあることが明らかになった。さらに、将来への安心感や不安はパーソナリティ特性と関連しており、外向性が将来への安心感、神経症傾向が将来への不安と特に関連していた。またコロナ禍における行動制限は、日常的な将来への不安や抑うつ感情と関連していた。これまでの研究が、数年間の縦断調査の関係から、将来についてのアイデンティティと精神的健康の関連を示してきたことに対して、本研究では日常レベルに焦点を当て、アイデンティティ発達と精神的健康の関係についてのメカニズムに踏み込んだ検討を行った点で、世界的に見ても例がなく、新規性が高い。また、将来へのアイデンティティと日常的な感情との関連を示した点は、精神的健康を維持・増進するための方策を検討する上で極めて意義がある知見と言える。
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