本研究はCovid-19の影響を受け予定していた最終年度を延長することとなった。 超音波検査も含む出生前診断技術の進展に伴い、医療看護領域では,妊娠の中断を選択する親や関わる医療者に対して,心の専門家によるサポートが求められている。しかし,臨床心理学領域では周産期喪失に特化したケアの実践研究や人材育成,その効果の評価が未発展である。そこで本研究では,出生前診断の結果によって人工妊娠中絶をする際の心理ケア体制構築と実践のため,親に対して心理専門家が介入を行い(1)人工妊娠中絶を経験した親の体験様式の現れの構造をとらえる,(2)退院後1ヶ月時の心理評価と検討,(3)退院後6ヶ月時の心理評価と検討,以上3点を目的として研究を行った。 医療機関がフィールドであったことからCovid-19の影響を受けフィールドでの調査が難航したものの,研究計画の通り人工妊娠中絶を経験した親の体験様式の現れの構造を事例を通してとらえる試みを行った。研究の成果は学会発表を行った後,国内の臨床心理学分野で最も著名な心理臨床学研究で原著論文として掲載された。当該論文が高く評価され,心理臨床学会より2022年度奨励賞を受賞した。 また,心理評価とその検討に関しては当初予定していたサンプル数には達しなかったものの,得られたデータを解析し、国際学会での発表を行った。 さらに,日本ではこれまでなかった臨床心理学的視座から人工妊娠中絶について検討した書籍の出版を果たし,研究成果をもとに専門職向けの研修や講演も行い社会還元に努めた。
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