研究課題/領域番号 |
18K13348
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
梅垣 佑介 奈良女子大学, 生活環境科学系, 講師 (00736902)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 認知行動療法 / 共通要因 / うつ / 反すう / 自助プログラム |
研究実績の概要 |
認知行動療法における「心理療法の共通要因」のあり方を検討するという本研究課題の目的の達成のため、主に以下の2つのアプローチから研究を行った。 (1)技法要因による自助プログラムの効果と限界の検討 認知行動療法の一技法である反芻焦点化認知行動療法(Rumination-focused Cognitive Behavioral Therapy; Watkins, 2016)に基づく予防的自助プログラムを開発し、反芻や抑うつ・不安の予防的効果の検討、および技法要因に基づくプログラムの限界の考察を行った。これらの研究成果について、2018年10月に開かれた日本認知・行動療法学会でポスター発表を行った(梅垣・松岡・岩垣・樋口・ワトキンス・マラン,2018)。反芻焦点化認知行動療法の療法特有の技法要因の有効性を評価しつつも、技法要因のみでの継続や改善が難しい場合について考察を加えた点に意義があると考えられる。学会発表で得られた意見も踏まえ、技法要因に基づく自助プログラムの効果、およびその限界についてまとめた論文を執筆中である(2019年5月現在)。 (2)共通要因と技法要因が併用された事例・マニュアルの質的な検討 共通要因と技法要因とが統合的に用いられた例として、認知行動療法の創始者であるBeck, A. T.による認知行動療法のマニュアル(Beck et al., 1979)に注目し、マニュアルおよびそこで紹介された事例における共通要因の意義を考察し論文として発表した(梅垣・尾崎・黄・植田・岩垣・松岡,2019)。変容の技法など技法要因に注目されがちな認知行動療法においても共通要因の重視が明記されていること、他療法からも学ぶ必要があると書かれていること等の知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初、認知行動療法における「心理療法の共通要因」のあり方を検討するという目的の達成のため、3つのアプローチからの検討を計画した。それらは、(1)技法要因による自助プログラムの効果と限界の検討、(2)共通要因と技法要因が併用された事例やマニュアルの質的な検討、(3)類似する他の心理療法との比較、であった。このうち、(1)については開発した自助プログラムの効果と限界を定量的・定性的両方の側面から検討した混合研究法のデザインに基づく論文を現在執筆中である。また、定性的な分析については2018年に学会発表を行っており、進捗は概ね順調といえる。(2)については、2018年度は認知行動療法の最初期のマニュアルであるBeck et al. (1979)の内容を検討し、論文としてまとめることができた点に意義がある。他にも検討すべき専門書や事例は存在するが、現時点では(2)についても概ね順調な進捗であるといえる。最後の(3)については、認知行動療法との類似性が指摘される森田療法の専門家との意見交換を続けている。残る研究課題期間内に何らかの形で研究成果を発表できればと計画している。以上の事から、全体的にみて概ね順調な進捗であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性について、研究開始当初に挙げた3つのアプローチに基づいて述べる。 (1)技法要因による自助プログラムの効果と限界の検討:先述の通り、反芻焦点化認知行動療法を用いた予防的自助プログラムを開発し、その予防的効果および限界を定量的・定性的に検討した内容について、現在論文を執筆中である。今年度は論文の完成と、専門誌への掲載を目指している。さらに、自助プログラムのみでは改善が難しい事例の詳細な検討、および対面式の支援との比較について今後進めていく予定である。 (2)共通要因と技法要因が併用された事例やマニュアルの質的な検討:Beck et al. (1979)のマニュアルに続き、認知行動療法の専門書を詳細に読み解き、その中から共通要因と技法要因のあり方について定性的に検討する作業を継続する予定である。専門書の候補として、Watkins (2016)による反芻焦点化認知行動療法のマニュアル、Beck (1976)による認知療法についてのもう一冊の著作、およびBeck, J.による認知療法実践ガイド(Beck, 1995)が候補に挙がっている。 (3)類似する他の心理療法との比較:森田療法の専門家との意見交換を続け、森田療法と認知行動療法の共通・相違点の理論的な検討、および各療法を用いた事例について他療法から読み解く事例研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した一番の理由は、予定していた海外渡航が延期になったことである。当初の計画では、平成30年度中に共同研究者であり反芻焦点化認知行動療法の創始者でもあるワトキンス教授のいるエクセター大学(イギリス)を訪問し意見交換や共同研究の打ち合わせを行う予定であった。その旅費等諸経費がかかる予定であったが、研究代表者の私的生活面における変化や心理職の国家資格への対応および受験のため、海外渡航をすることが困難となったことが一因である。2019年度にエクセター大学に渡航することを計画しており、繰り越した分の研究経費については残る研究課題期間内に計画的かつ有効に利用予定である。
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