研究課題/領域番号 |
18K13348
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
梅垣 佑介 奈良女子大学, 生活環境科学系, 講師 (00736902)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 認知行動療法 / 共通要因 / うつ / 反すう / 自助プログラム / ケース・シリーズ |
研究実績の概要 |
令和1年度(2019年度)は以下のアプローチから研究を進めた。 (1)認知行動療法の技法要因についての検討:反芻焦点化認知行動療法(rumination-focused cognitive behavioral therapy; RFCBT)を用いたうつ・不安の予防的自助プログラムを適用したケース・シリーズ執筆のため、2019年9月に共同研究者が在籍する英国University of Exeterを訪れ、研究打ち合わせを行った。自助プログラムの効果とその作用機序、限界、より効果を高めるための共通要因の導入といった内容について話し合った。このケース・シリーズについては共同で論文を執筆し、2020年6月時点で投稿中である。また、対面式の支援との違いについて議論するため、同大学の研究者と定期的にオンラインでミーティングを行っている。さらに、第19回日本認知療法・認知行動療法学会でのシンポジウムに招待され、反芻焦点化認知行動療法の理論や考え方、効果について講演した(梅垣,2019)。 (2)共通要因と技法要因が併用されたマニュアルの検討:前年度にBeck et al. (1979)によるうつ病の認知療法のマニュアルを講読したのに続き、本年度からはWatkins (2016)による反芻焦点化認知行動療法のマニュアルを講読し、共通要因と技法要因のあり方について検討を行っている。 (3)他の心理療法との比較:カナダSimon Fraser Universityに在籍する森田療法の専門家と共に心理療法の共通要因に関する研究を行い、成果を論文として発表した(梅垣・南,2020)。同研究者とは引き続きオンラインでミーティングを続けており、心理療法の効果的な適用に関する共同研究を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初、認知行動療法における「心理療法の共通要因」のあり方を検討するという目的の達成のため、3つのアプローチからの検討を計画した。それらは、(1)技法要因による自助プログラムの効果と限界の検討、(2)共通要因と技法要因が併用された事例やマニュアルの質的な検討、(3)他の心理療法との比較であった。このうち(1)については、2019年度に英国University of Exeterの共同研究者たちと直接打ち合わせを行い、研究成果を論文としてまとめ専門誌に投稿できたこと、国内の主要学会においても招待講演を行えたことから、順調に進展していると言える。(2)については、2019年度よりWatkins (2016)による反芻焦点化認知行動療法のマニュアルの講読を進めており、療法のマニュアルの中で技法要因と共通要因がどのように記述されているかや、事例の中での各要因の状況などを検討している。2020年度中に終わらせることを計画しており、概ね順調な進捗と言える。(3)についてはカナダSimon Fraser Universityに在籍する森田療法の研究者との学術的交流を続け、その成果を論文にまとめ発表した。したがって、(3)についても順調な進捗である。以上のことから、全体をみても概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の方向性について、研究開始当初に挙げた3つのアプローチに基づいて述べる。 (1)技法要因による自助プログラムの検討:先述した通り、現在投稿中である反芻焦点化認知行動療法を用いた予防的自助プログラムのケース・シリーズについて、専門誌に掲載されるよう査読対応や論文の修正改良を進める。また、英国University of Exeterの共同研究者との学術的交流を継続し、技法要因の効果を大きくするための共通要因のあり方についての検討や、対面式援助との比較を引き続き行っていく。 (2)共通要因と技法要因が併用された事例・マニュアルの質的な検討:引き続きWatkins (2016)による反芻焦点化認知行動療法のマニュアルを講読し、共通要因と技法要因のあり方について考察する。講読の成果物として、マニュアルの翻訳書を出版することを計画している。 (3)他の心理療法との比較:カナダSimon Fraser Universityの森田療法の専門家との意見交換を続ける。特に、効果研究によって示された心理療法の効果を現場で参照できる形にするため、translation of knowledgeやimplementation scienceをキーワードとした共同研究を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生しているが、これは研究初年度(2018年度)の使用額が予定より少なかったためであり、2019年度については概ね計画通りに研究経費を用いて研究を進めることができている。特に、当初計画にはなかったが2019年度に英国University of Exeterに渡航し、共同研究者たちと直接顔を合わせて研究打ち合わせを重ねることができたのは研究遂行の上で大変有意義であった。2020年度は研究の最終年度に当たるため、適正に研究経費が使用できるよう、共同研究者である慶應義塾大学の研究者らとともに反芻焦点化認知行動療法のマニュアルの翻訳を専門業者に委託しつつ行うことを計画している。
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