研究課題/領域番号 |
18K13354
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
工藤 由佳 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (20815831)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | アタッチメント / 持続性抑うつ障害 / 愛着障害 / 治療抵抗性うつ病 / 児童虐待 / 不適切な養育 / 認知行動療法 / 家族療法 |
研究実績の概要 |
うつ病患者のうち約半数は不適切な養育環境で育っていることが近年明らかになり、それらの患者の多くは治療抵抗性うつ病であることがわかった。そして 不適切な養育環境と治療抵抗性うつ病を媒介するものは、愛着障害であることが解明された。本研究では、治療抵抗性うつ病の治療において、愛着障害に焦点を当てた治療を認知行動療法に組み合わせることで、治療成績の向上を目指す。今年度は、治療抵抗性うつ病に対する、愛着障害に焦点を当てた認知行動療法の治療者マニュアルの作成を行った。マニュアル作成に先駆けて、愛着障害に焦点を当てた認知行動療法によって回復した症例を、日本精神神経学会及びアジアの家族療法学会であるTJKカンファレンスにおいてそれぞれ一例ずつ報告し、「他者と繋がりたい気持ちが抑圧されている人に対してはどう対応すべきか」「親にクライエントの気持ちを伝えても伝わらない場合はどうするの」などの様々な意見を得た。それらの意見を踏まえて、マニュアル第一版の内容を決定した。 マニュアルの中心的な要素は、(1)患者とセラピストとの間、および(2)患者と身近な人との間に信頼を芽生えさせることとした。(1)に関しては、構造を必要最小限に設定し、患者が来談し続けられることを最優先にすること、患者が生き続けられることを目標とし変化を性急に求めないことを重視することとした。そのため数年を要することも多くある。(2)に関しては、患者が親やパートナーにこれまで抱えてきた葛藤を伝え、自分を抑え過ぎずに関わる事のできる関係性を目指すこと、親やパートナーへの葛藤を含めて自分の心のうちを伝えられる相手を見つけることの2点を必要不可欠な事柄として設定した。最終的なセラピーのゴールは困った時に頼りにできる安全基地を作ることとした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究1)「愛着障害に焦点を当てた認知行動療法」の治療者マニュアルの作成 今年度は、マニュアルの作成に重点を置き、パイロットケースでの実践を2019年4月から始める準備ができた。まず、評価尺度を決定した。アタッチメント・スタイルの評価に関しては、安心アタッチメント人物・スタイル質問紙(SAFS)およびadult attachment relationship questionnaire(RQ)を使用することとした。これにより、安全基地となってくれている人の人数、および対人関係における関係の持ち方を評価することができる。そして、ベースライン、半年後、1年後にうつ病重症度とアタッチメント・スタイルがどのように変化するかを評価することとした。パイロットケースでの評価には1年かかるため、研究期間内に成果を出すためにも、できるだけ早期にケースシリーズを開始することに力を注いだ。 研究2)どのような両親の養育態度の組み合わせが、愛着障害をもたらすか どのような両親の養育態度の組み合わせが、子供に愛着障害をもたらし、ひいては成人してから治療抵抗性うつ病に至るのかを明らかにするため、治療抵抗性うつ病患者100名に対し、幼少時の親との関係及び、アタッチメント・スタイルを評価し、相関を明らかにする。幼少時の親との関係に関しては、Parental Bonding Instrument(PBI)、アタッチメント・スタイルに関しては、adult attachment relationship questionnaire(RQ)を使用することとした。今年度は、対象者の抽出を行い、主治医らの許可を得て研究を開始する準備ができた。
|
今後の研究の推進方策 |
研究1)「愛着障害に焦点を当てた認知行動療法」の治療者マニュアルの作成 パイロットケースでの愛着障害に焦点を当てた認知行動療法の実績を蓄積する。そしてベースライン、半年後、1年後におけるアタッチメント・スタイルの変化及びうつ病の重症度の変化を評価し、ケースシリーズとして報告する。その実践により、マニュアルの実施可能性について再検討し、改善する。また、同時にデルファイ法によって、複数の専門家及び患者にマニュアルについての意見を集い、得られた結果をフィードバックして再度意見を集うことを繰り返し、統一的な見解を得る。その上で、研究期間内にマニュアルを完成させる。 研究2)どのような両親の養育態度の組み合わせが、愛着障害をもたらすか 治療抵抗性うつ病患者100名に対して、幼少時の親との関係およびアタッチメントスタイルを評価することに関しては、群馬病院の外来に通院中の持続性抑うつ障害と診断された患者に対して、外来の待ち時間に協力を依頼する。すでに対象者の抽出はできているため、次年度の施行は可能である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究2)どのような両親の養育態度の組み合わせが、愛着障害をもたらすか、に関して、研究準備は今年度に行ったが、患者のリクルートを次年度に行うことにしたため、人件費も含めて次年度に使用額が生じることになった。
|